- 価格: 950 円
- 楽天で詳細を見る
【あらすじ】
敗戦後間もない大阪に住む新城洋は空襲で母を失い、船乗りだった父も落ちぶれ、中華料理店を必死に働いている姉に支えられて生きていた。組織も社会も価値観がガラリと変わった中、新制中学を卒業すると、組織と社会を守るために大阪の警察に奉職する。当時、戦後短い期間に存在した「大阪市警視庁」は、軍隊帰りや憲兵上がりの上司や先輩がたくさんいた。その中で新城はたたき上げとして現場で揉まれて刑事として成長していく。
新城が20歳になった昭和29年、麻袋を頭から被せられた他殺体が相次いで発見された。大阪選出の代議士の関与が疑われたため、捜査本部に30代で国家地方警察の警備部(公安部署の1つ)の守屋が加わった。戦後の混乱した世相におきる怪事件を、中卒たたき上げと旧帝大出身のエリートがバディを組んで操作を進める。それぞれの個性が時にぶつかり合い、そして時に支え合いながら。
そんな事件に、戦前の満州開拓団における「闇」の真実が交錯する。
【感想】
先に取り上げた「たかが殺人じゃないか」と同じく戦後の混乱期の話。時代は令和となり、戦後を振り返る題材が注目されたのか。そして本作品のタイトル「invisible」は、目に見えない・一目につかない、を意味する。デビュー作「へぼ侍」と比べてタイトルの意味が分かりづらいが、1990年生まれで東京大学で日本近現代史を研究するキャリアから、深い意図があるのか、と考えながら読み進める。
- 価格: 880 円
- 楽天で詳細を見る
警察小説におけるバディものは、小説に映画にと数多くある。キャラは正反対の方が描き易いと思うが、普段は対立する公安と刑事が相棒になって捜査を進める小説は少ないのではないか。私はモスクワ警察のシュワルツェネッガーがシカゴで地元刑事と捜査する映画「レッドブル」を思い出した。
作者の専攻する研究対象によるものか、ディテールは恐ろしく緻密で、発刊当時30歳とは到底思えない。文章から戦後の混乱した社会が浮かび上がり、人物も1人1人が生々しく、丁寧に掘り下げていく。この手法は辻真先よりも、1986年生まれで東京大学の総合文化研究科で学んだ小川哲が満州国を描いた「地図と拳」に近く感じる。若手作家が大量の資料によって時代を再現する。戦後も歴史になったもの。
その中でも主人公の新城洋と警備部のエリートの守屋の人物造形が見事。新城はたたき上げの刑事という「ステレオタイプ」の造形だが、そんな中でも大阪弁を交えた先輩との会話や、若いが世慣れした聞き込みの巧みさ、そして混乱期の一風景としての「転落した家族」の描き方も容赦ない。
対する守屋は、東京大学出身で警備部(公安)のエリート。公安の刑事だと通常は余り過去を掘りあげないが、守屋には挫折があり、特攻の生き残りという設定となっている。その後の捜査でも公安捜査と異なり、刑事事件の「聞き込み」は上手くいかない様子も描いている。この辺は、刑事と公安が協力して捜査を行う物語ならではのもの。
事件自体は、正直戦後の混乱期に起きた政治絡みの事件という印象は拭えない。政治家が出るために造船疑獄の捜査を経験した警察官僚が登場して丁々発止を繰り広げるが、これは警察小説というよりも社会派小説の雰囲気が強い。更には、伏線とした満州国の現状とその終焉を、事件に交錯させた手腕は見事であり、社会小説としての読み応えは十分。
そして実在の人物がモデルとして登場するのも、味わいがある。「大手新聞社の社会部のエースとして、スクープを連発した黒木記者」はストーリー上わかるが、「寺社仏閣については学者並みに詳しい文化部の柴田記者」と、後の国民作家を (無理矢理?) 登場させたのは、作者個人のオマージュであろうか。

*戦後、読売新聞大阪社会部で活躍した黒田清記者(三重テレビ放送HP)