兜町の男 清水一行と日本経済の80年【電子書籍】[ 黒木亮 ]
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【あらすじ】
城山三郎と並んで、第一世代として経済小説界を切り開いた清水一行。東京は玉の井の私娼街で育ち、戦後は共産主義者として奔走するも自己批判を求められた挙句、追放されてしまう。その後ひょんなきっかけから経済小説家と知り合うことで経済ライターへと歩みを変えて、苦労しながらも経済小説作家として自立を目指し、「小説兜町(しま)」で見事デビューした。
その後はセンセーショナルな作品を世に出し続け、経済小説の分野を確立する。しかし同話団体同盟との軋轢や、作品に対するプライバシーの侵害による裁判に巻き込める姿などを赤裸々に暴いた、まるで清水一行自身が作品の主人公のような、79歳の生涯を描く。
【感想】
およそ3年前、経済小説編の最初にくくった「城山三郎・清水一行 経済小説10&10」。ブログの下書きを書き終えた後に出版したため、取り上げるタイミングを失ってずっと気になっていた作品です。
私娼街で育ち共産党員となって活躍するも、謂われ無き嫌疑を受けて挙句の果てに除名処分。重ねて喀血も起こし療養生活を送る羽目に陥る。そんな青年期の挫折を糧に、知らず知らずのうちに他者からはマネできない視点を培っていく。その後ひょんなことから足を踏み入れた株式の世界を、その眼力から人間の「業」として暴いていく。
発刊と同時に出版界を席巻したデビュー作「小説兜町(しま)」の誕生秘話は、自身の作品「兜町物語」でも詳しいが、黒木亮は有名なエピソードを交えながらも二番煎じに陥ることなく、清水一行の生涯をトレースしていく。
作者黒木亮の姿勢は、清水一行が日本経済の「暗黒海流」をフォーカスしたものと同じく、先輩作家に対して容赦も忖度もない。部落解放同盟からの執拗な抗議や、プライバシー侵害による泥沼のような裁判も、全てをさらけ出すことが清水一行への供養とばかりに、直系の弟子の矜持を感じさせながら筆を進めていく。
清水一行がどのように生まれ成長したかを知ることは、読む側の私にとって驚きだった。清水一行の79年の生涯はまるで戦後の日本経済の「闇」が、清水一行の人生と同質化していくように思えてくる。
敗戦から戦後復興までは、まるで戦国武将のように力のある創業者たちが活躍し、そして敗れる姿を描く。そして高度成長期からバブルでは、その渦に巻き込まれた企業戦士たちの悲哀を描いた。しかしその中で企業は、そして企業人は、時に問題をすり替えて先延ばしし、利益を最優先にすることで「ジャパン・アズ・No.1」と成り上がった。しかし間もなく砂上の楼閣から「高転びに落ち」る。
平成から令和の現代にかけて、昭和の時代から熟成された日本経済の負の遺産が噴出し、企業のガバナンスやコンプライアンスが問題になっている。そんな負の遺産を清水一行は、そして黒木亮は暴いてきたが、日本企業は自浄作用を発揮することができなかった。
清水一行のチームに、「ぼくらの七日間戦争」を書いた宗田理がいて、日本推理作家協会賞を受賞した傑作「動脈列島」の執筆に携わったエピソードが驚きだった(ネットでは露骨に「ゴーストライター」と指摘している向きもある)。ライトノベルで活躍した宗田理だが、清水一行だけでなく松本清張や高木彬光などとも交流があり、社会の暗部についても深く精通していた。
もともとは共産党員として青春期を送った清水一行。1989年にベルリンの壁が崩れたのを目の当たりにしたとき、「これこそ自分が目指していた、真の民衆革命だ!」と、滂沱(ぼうだ)の涙を流したという。清水一行の生涯は、日本だけでなく世界の歩みとも同化していた。
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1度記事を投稿したら、やっぱりブログを再開したくなりました (^^)
隔週くらいのユルいペースで「令和の国内ミステリー20選」を取り上げる予定です。