
*「狂相」の持ち主、愛親覚羅溥儀。映画「ラストエンペラー」では運命に翻弄された皇帝として、2025年2月に放映された「映像の世紀 バタフライエフェクト」では、自己中心的な性格として描かれました。
【あらすじ】
満州で溥儀に付き添う梁文秀は合間を縫って妻の玲玲と故郷へ向い、父や兄の墓で頭を垂れる。その故郷は李春雲が貧困から身を起こし「正二品大総管」に昇り詰めた後に、私財を投じて灌漑を行い橋を架けて、まるで桃源郷のような装いに変えていた。更に変法の政変で犠牲となった、梁文秀の妻と子の亡骸を故郷に運び、墓を建てたのも季春雲だった。
日本陸軍の至宝と呼ばれた永田鉄山は、張作霖の爆破事件に巻き込まれ、片足を失った吉永将から真相を聴いた。結果、5期下の石原莞爾を閑職に追いやり、関東軍の粛清に手を下した。しかし永田は石原の頭脳が必要だと思い直し、天才と狂気が宿る「テロリスト」と断定する吉永を同席させて、石原の心中を探ることにする。
吉永が論戦を戦わせるも、石原は冷静に世界情勢を分析した上で、自らの主張を展開する。多くの資源を有する満州は、大東亜共栄圏を築く日本がいずれ「世界最終戦争」でまみえる欧米列強に勝つために、必要不可欠な領土であることを、理路整然と論じた。
但しそれは日本の論理に過ぎない。張作霖の配下第一の包頭児(パオトウル)だった馬占山は、「我還満州」をスローガンに、ハルピンの北方で日本軍に抵抗を続ける。更には張学良が外遊を続けるヨーロッパにまで現れて、満州に戻ることを説得する。張学良はその言葉に動かされ満州に戻り、父を爆殺した日本に対して戦をもって抵抗を行うことを決意する。
北京の一角では、除隊した季春雷が進士出身の林先生と縁台将棋を指していた。林先生は孫娘と李の息子が相思相愛と知り李の素性を探ると、季春雷が張作霖の幕僚で高名な「紅巾」にして、弟は「正二品大総管」の官官季春雲。そして妹は科挙で同期の「状元」梁文秀の嫁と知り驚愕する。そのとき偶然、林先生は「探花」王逸と再会を果たす。放浪先の江南省で出会った少年、毛沢東は王の教えを受けた後、「紅軍」の武将として名を上げているという。
*溥儀の正室、婉容(ウィキペディア)
満州では日本陸軍が満州国を建国し、その「執政」として溥儀を据えようとしていた。しかし溥儀は「皇帝」の座にこだわる。正室の婉容はアヘン漬けとなり、人前には出せない状態にあった。満州国を支える幹部たちも実質的な権力者である関東軍をおもんばかり、溥儀の登極の儀に付き添う者はいなかった。
そんな登極の儀を、光緒帝の思いを受け継ぐ「状元」梁文秀と、西太后の遺命に従う「正二品大総管」李春雲の2人が祭祀官として支える。光緒帝から譲られた龍袍を着衣するも、偽物の龍玉を携えて北京とは比べ物にならない貧弱な天壇を前にだだをこねる溥儀。しかし2人に励まされながら、自らの意思で皇帝に即位した。
【感想】
万里の長城の外側の満州。かつては清王朝の皇統、愛新覚羅家の太祖ヌルハチが疾風して制覇し、中原に覇業をなす礎となったゆかりの場所。その地を300年後に張作霖が巨大な勢力を築き上げた。そこに今度は日本陸軍が侵掠していく。またそんな「楽園」目指して一旗揚げようとする人、そこから逃れる人など思惑が入り乱れる。
ヌルハチの子孫の溥儀と張作霖の子の張学良は,祖先や父のような胆力は有さずに、自らの居場所を定められない。2人はその後の変遷を経て「約束の地」に舞戻るが、ともにその地位を保つことはできなかった。
*張景恵。張作霖の配下ながら馬占山とは袂を分かち、満州国ではNo.2の総理大臣に治まります。しかし戦後シベリアに連行されました。
溥儀は終戦と同時に満州国が崩壊する中、ソビエト軍の捕虜となりその後14年に渡る収容生活を経たあと、61歳で死去。張学良はその後蒋介石と手を結ぶが、あくまでも抗日を求める張学良に対し、共産党を殲滅して国内統一を優先する蒋介石と対立する。しかし共産党の勢力が強まったために、蒋介石ともども台湾に逃れ、2001年に100歳で没した。
溥儀の正室婉容は満州に行くとアヘン中毒が進行し、皇帝の妻にあるまじき「浮気」によって妊娠してしまい、侍女 (本作品では玲玲)が生まれて間もなくの「不義の子」を死に至らしめる。最後には自分では身の回りの世話もできず、汚物まみれになりながら、溥儀がシベリア拘留中に命を終えた。
本作品では次代を担う毛沢東の家庭教師王逸と、龍玉を預かる季春雷を交錯させ、その後の可能性を匂わせている。果たして毛沢東は「龍玉」を手に入れるのか、それとも「人民革命」らしく皇位の証に頼らずに中国を支配したのか、興味が持たれるところ。
対して日本。陸軍の至宝と目された陸軍少将永田鉄山だか、皇道派への懲罰人事に反発した相沢三郎中佐によって刺殺される。翌年大粛清の噂を聞いた皇道派の面々は2・26事件を起こして組織は壊滅した。対して統制派は東条英機が永田の後を継いで、戦争への道を突き進む。
西太后、光緒帝、李鴻章、衰世凱、張作霖など、一般に流布している人物像とは異なる1面を見せながら、「没法子(しょうがない)」の言葉を封じて生きた李春雲と梁文秀の70年にも及ぶ物語は、史実とフィクションが混じり合い、壮大なストーリーを紡ぎあげた。近くて遠い近代中国の歴史を日中英仏の言語で使い分けながら進めた物語の、最後の一章は何とも効果的。
シリーズ読了後は、長い旅路を終えた、満たされた気持ちに包まれた。
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*宋教仁を守ろうとして命を落としたトーマス・バートンの子ジェームス・ターナーが因縁の中国に導かれます。張学良と蒋介石が「龍玉」を巡って対立し、ミセス・チャンが毅然と退場し、「探花」王逸が重要な役割で登場します。
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