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【あらすじ】
清国が滅亡する。辛亥革命を果たして南方を制する中華民国の孫文は、首都北京を中心に軍を率いる衰世凱と協調するも、衰世凱が「憤死」すると軍隊は四分五裂してしまい、北と南で勢力が分断されてしまった。万里の長城の外から山海関を超えた張作霖。革命勢力の中国国民党、旧清国の軍閥、そして満州の馬賊がせめぎ合う中、退位したラストエンペラー溥儀は、不思議な立場にあった。
袁世凱死後の内紛で紫禁城から追い出され、上海に逃げ込んで日本の庇護を受けて暮らす溥儀。その姿を見た張作霖は、龍玉の持ち主としては相応しくないと判断する。しかし張作霖が満州に戻ると間もなく日本陸軍の謀略に呑まれ、列車内の爆発で命を落としてしまう。張作霖死後の軍閥は解体され、日本軍は代わりに満州国を建国しようと目論み、その象徴として溥儀を据えようとしていた。
溥儀と正室の婉容が一夫一婦制を尊重するため、宙に浮いた存在となった側室の文繍は、己の「自由」を勝ち取るために、前代未聞の「皇帝への離婚」を申し立てる。協力者は妹と、皇帝溥儀に付き添った梁文秀の妻で、文繍の侍女の玲玲だった。最初は離婚など承知しなかった溥儀とその周辺だが、満州国で皇帝の復辟の可能性が高まる中で面倒なごとは片づけようと判断し、皇帝と側室の「離婚」が成立した。
伝説の宦官、李春雲に付き添われて取材する日本人記者に向かって、文繍は妃となるきっかけから紫禁城での生活、上海への逃亡劇から離婚までの経緯を、赤裸々に語っていく。
*秀麗な容貌の貴公子・張学良
父・張作霖死後に後継を担うはずの張学良は、日本が戦争によって満州を奪おうとする思惑を見破り、満州を守るために後継者の立場を放棄して、ヨーロッパに逃れる。そんな中張作霖第一の配下で猛将の馬占山が、唯一満州の地で日本軍に抵抗を続けていた。そんな馬占山に対峠したのは、蒋介石率いる中華民国に合流した、かつての仲間「大好人」張景恵だった。
季春雷は張作霖が亡くなったのを潮時と感じて、除隊を申し出る。同じく満州から離れる決意をした張学良は李春雷に、父から託された「天命の印」龍玉を預かるように頼み、アヘン漬けの身体でヨーロッパへと旅立っていく。
満州では関東軍参謀石原莞爾の謀略で、張作霖爆死から満州国建国までのシナリオが動いていた。強引な手法のため日本は国際的に孤立していくが、その中で溥儀は梁文秀のアドバイスに従い、満州国建国のために溥儀を必要とずる日本軍に接近していく。
【感想】
「蒙塵」は、天子が塵をかぶって逃げ出すことを意味する。塵にまみれて逃げ惑う2人の天子、溥儀と張学良。幼少で退位した溥儀だが、周囲は溥儀の「復辟」(再び皇位につぐこと)を期待する。しかし3歳で西太后が皇帝に指名した溥儀は、成長しても決断力は欠如し、周囲の意見に翻弄されていく。そして何よりも「狂相」の持ち主で、「徳」もたらす人物とは思えない。そんな「龍玉」を持つ資格がないと思われる溥儀の人格を、溥儀の第二夫人にあたる文繍の視点から、容赦なく語らせている。
*溥儀の側室で皇帝と「離婚」した文繍(ウィキペディア)
文繍の回顧談は溥儀とその周辺に視点を絞って語られるため、背後にある清国滅亡後のかなり混乱した政情がわかりづらい。歴史の授業から見ると辛亥革命の「主役」であたる孫文から蒋介石に至る中国国民党を軸としがちだが、張作霖が龍玉を託すに足りると思われた「英雄」宋教仁が暗殺で倒れた後、本シリーズでは国民党からの視点を消してしまっている。
自ら龍玉を持つことを拒否した張作霖は、衰世凱死後の分裂した軍閥の内紛 (安直戦争、奉直戦争)に介入しつつ、一時的に中原を制した。しかし現実には軍閥の内紛にも日本政府は介入し、そして南京の中国国民党は孫文亡き後、軍人の蒋介石が実権を掌握して「北伐」を開始する。張作霖は満州に戻るも「満州某重大事件」による関東軍の謀略で命を落とす。
教科書的に見ると息子の張学良は、父の死後すぐに満州の軍閥を承継して、抗日を優先として時に蒋介石に降伏までした印象を受ける。しかし本作品では、上海では映画スターのように秀麗で「舞踏会の華」として描かれる一方、父の死後は父張作霖から預かった龍玉の重荷に耐えかねて、ヨーロッパヘ逃避行をおこなう「不抵抗将軍」として描かれる。
満州の蒙塵を逃れてヨーロッパに逃避行する張学良と、紫禁城から逃げて、皇統愛新覚羅家の祖ヌルハチが活躍した蒙塵の舞う満州に戻り、復辟を計ろうとする溥儀。梁文秀や季春雲、そして張作霖などの魅力的な主人公から見ると、かなりの見劣りは否めない。そのためか第2巻以降は溥儀や張学良よりも、様々な登場人物を借りての視点が多くなり、そこには日本人の視点も増えてくる。
蛇足だが、梁文秀が中華民国ではなく溥儀の側近として仕えたことは疑問に残った。1898年、変法の改革で立憲君主制を望んだ梁文秀だが、政変によって逼塞された光緒帝に対する「義理」で甥のラストエンペラーの側に仕えたのか。しかし前作「中原の虹」では、教え子の中国国民党幹部・宋教仁が暗殺されたことで帰国を決意したはず。ちなみに梁文秀のモデルである梁啓超は、旧清国でも中華民国でもなく袁世凱の配下となり、袁世凱死後はその後の軍閥政府に所属したあと官を辞す。
とは言え梁文秀が溥儀の側で仕えることは、「小説」では非常に大きな役割を果たす。
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