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17-2 中原の虹 ② 浅田 次郎(2006)

   

*清国滅亡のあと一時的に皇帝の座についた袁世凱ウィキペディア

 

【あらすじ】

 張作霖満州の地で巨大な軍閥を築き、北洋軍を指揮する袁世凱も無視できない存在になっていった。対して日露戦争でこの地の権益を受けた日本軍は吉村将陸軍中尉を派遣し、張作霖に近づいてその動向を本国に報告していた。王宮は6歳の幼帝を支える臣もなく、孤立を深め施策は迷走しようとしていた。更に孫文が唱える「三民主義」に同調した中部や南部は清朝から独立を求め、その勢力は燎原の火のように拡大していく。

 

 1911年10月10日。武昌で起きた小さな蜂起を抑える力は清朝にはもうなかった。「ラストエンペラー愛新覚羅溥儀は、亡霊となった西太后の知恵を借りて、清国を終焉させ民主制に移行する宣言を行なう。

 

 孫文を首魁とする辛亥革命は成功し、翌年1月1日に中華民国が建国された。孫文は民主主義への移行として「三序」を唱え、第一段階として軍事専制政治を是認するが、その役に相応しい人物は、軍を牛耳る袁世凱しか存在せず、孫文に代わって臨時大総統の職に就く。孫文袁世凱は対立しながらもお互いを必要として、笑顔の裏側で激しい駆け引きを繰り広げていた。

 

 しかし新政体の閣僚には、若干30歳の宋教仁も連ねていた。西欧諸国を歴訪して民主主義の息吹をたっぷりと吸った宋教仁は、自らの指揮で「臨時約法」を定め、袁世凱そして孫文の独裁を防ぐ「魔法」を使った。その発する言葉は多くの民衆を魅了するカリスマだったが、乱世では反動の的になり、万朝報の特派員、岡圭之介の眼前で兇弾に倒れてしまう。

 

 宋教仁は日本にもいた時があり、吉村将の母ちさの元で暮していた。そこには日本に亡命していた梁文秀もいて、母国では軽んじられた孔孟の思想を亡命した中国人に教えていた。宋教仁の死を知った中国の革命の志士たちは「状元」の梁文秀に、帰国して民主国家を支える役割を求めた。梁はその役割を断るが、変法の政変で危険を顧みず逃亡を助けた岡圭之介が帰国して、直接宋教仁の死に様を伝えると、妻の玲玲に後押しされて帰国を決意する。

 

  *宋教仁(ウィキペディア

 

 混乱の中、袁世凱は国内を立て直す名目で、自ら皇帝に即位して国を「中華帝国」に改める。龍玉の持ち主か張作霖だと知ると、列強から巨額の借款起こしてまで買い取ろうとして、その使者に大総管・李春雲を使わす。張作霖は龍玉の秘密を知る「不死身の雷哥」李春雲を応対させた。龍玉の売買は成立しなかったが、幼少期に別れた数奇な人生を歩んだ兄弟が邂逅した。

 

 皇帝となり玉座に登極する袁世凱を見て、徐世昌は果たしてこの道が正しい道だったのかと困惑する。民衆は袁世凱の即位に激しく拒絶し、わずか3ヶ月で帝政から民主制に復した。そして龍玉を有する「真の王者」張作霖は、かつて愛新覚羅の祖先たちが越えた山海関を越えて、混乱した中原に虹を架けようとした。

 

 

【感想】

 「乱世の梟雄」袁世凱科挙に二度失敗したあと軍人に身を立てることを決意し、「プレジデント・リー」李鴻章の率いる北洋軍に入り、その中で頭角を現わしていく。熟慮するよりも勘で動いて修羅場をくぐり抜けたが、実態は徐世昌の支えを必要とする小心者。2人は長年付き添う内に、支えるつもりがそそのかすようになり、まるでツガイの犬がお互いを追いかけてグルグルと回るように物語は進んでいく。

 袁世凱が清国滅亡の乱世を疾走することで、清国300年の、そして中国王政4000年の歴史で宿った様々な「しがらみ」が解き放たれていく。西太后袁世凱は、民主化を達成するための「ラスボス」の存在となり、徳川慶喜の役割を「丸投げ」されたのは、わずか6歳の宣統帝愛親覚羅溥儀

 

  

 *本作品の主人公、梁文秀のモデルとされる梁啓超。こちらは日本亡命時の写真で辮髪も切っています。

 

 歴史と寄り添いながら、小説として「蒼穹の昴」から打たれていた布石が、時代の巨大な渦に巻き込まれて1つ1つ回収されていく。西太后と亡霊の乾隆帝との関係が溥儀と西太后の関係に重なり、岡圭之介とトーマスの2人のジャーナリストの役割も悲劇的な形で終える。更には西洋かぶれの鎮国公・載沢が恋い焦がれた謎の美女、ミセス・チャンの役割と正体。

 そして2人の主人公、梁文秀李春雲も新たな運命が待ち受ける。最愛の西太后を失った李春雲は愛親覚羅家の家宰として、宦官の役割は継続しながら生き別れの兄春雷と運命的な再会を果たす。一方梁文秀は多くの犠牲者を出した痛手もあり、日本に逼塞して表に出ることを拒否しながらも、導かれるように母国へと帰る決意をする。

 

 本来は歴史小説なので「ネタバレ」など気にしないものだが、本作品の後半から終盤にかけては、伏線の回収が見事で、ここで説明をすると興ざめになる内容が多い。内面を明かさない張作霖を除いて、登場人物たちがそれぞれの場面で決断するに至る過程の描写が見事。そのきっかけとなる材料が、時に史実から、時には言葉から、そして時にそれまでの物語で「手作り」で作りあげた材料を大切に使い、読み手を感情移入させ、物語に入り込ませていく。ここまで書いて何だが、できれば「蒼穹の昴」から始まる長大な物語を、最初からじっくり読んでもらいたい。

 

 笑顔を忘れない玲玲が居住まいを正す時、読む者は背筋を伸ばし、玲玲が泣くときは、読者も涙を誘われる。

 

*1928年張作霖が爆死した「満州某重大事件」。陸軍の暴走に激怒した昭和天皇は、節を曲げないために逮捕された志津中尉に事件の真相解明を命じる。その報告書の「マンチュリアン・リポート」。真相を知った志津中尉は報告するかどうか悩み、その末に出した結論は・・・・

 

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