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16-2 蒼弩の昴 ② 浅田 次郎(1996)

 

李鴻章下関条約の敗戦国代表というイメージですが、本作品では颯爽とした「プレジデント・リー」。

【あらすじ】

 政界の大立者、李鴻章太平天国の乱を平定した曽国藩の配下で、共に科挙に合格した進士は、頭脳明晰で弁舌たくましく外交も卓越した人物。自ら整備した軍隊を率いれば、権力を掌中に入れるのは容易と思われ、清国の将来を憂いた赤心の進士、王逸は直接李鴻章に決起を促す。しかし儒者李鴻章は皇帝と西太后への忠誠を裏切ることはできず拒絶した。王通はそんな李鴻章に心服し、側に仕えることにする。

 

 清国は列強から蹂躙される。フランスはベトナムを奪い、イギリスは香港で更なる譲歩を迫り、日本、ドイツ、ロシアも中国北部を割議していく。李鴻章は外交手腕でできうる限りの譲歩を引き出すも、それでも周囲の評判は落ち、悪評に耐えかねて隠遁してしまう。日清戦争李鴻章の軍を率いた王逸は戦いに敗れ傷心する一方で、同じ配下の袁世凱は王逸を助けずに一歩引いて、軍を温存してその後に備えた。                    

 

 西太后は1人奮迅して国を支えるが、治世はますます混迷する。現状打破を求める若い進士たちは、定められた運命に導かれるかのように、思いつめた行動をとる。

 第三等「探花」の王逸李鴻章袁世凱の中に巣食う「闇」を感じ暗殺を命じられるも、肝心の場面で拳銃が作動せずに失敗してしまう。囚われた王逸は機を見て脱獄し、その後の消息が途絶えた。

 第二等「榜眼」の順桂。韃靼族に伝わる王家愛新覚羅の呪いを断つために、恭親王から西太后の抹殺を遺命受け爆弾テロを起こすも、西太后は難を逃れ、自らは命を落とししまう。

 第一等「壮元」の梁文秀は、近代化が進行する世界で、新たな技術を生み出さない儒教を重んじる政治に、不満を募らせていた。公羊学者の康有為が提唱する、立憲君主制に変革する「変法」に賛同し、光緒帝を擁して「戊戌の変法」と呼ばれるクーデターを決行する。

 

 

*変法活動を指導し、日本の要人とも親交を結んだ康有為と、「戊戌の政変」で刑死された譚嗣同(ウィキペディア

 

 しかしわずか100日で、西太后ら保守派の巻き返しによる「戊戌の政変」によって革新勢力は壊滅する。「戊戌六君子」と呼ばれる同士たちは捕えられ、譚嗣同(たんしどう)も、許嫁となった玲玲の目の前で断首されるが、梁文秀は仲間たちから生きることを託される。代わって保守派「后党」の首領、栄禄が権力を握ったが、裏では衰世凱が軍隊を背景として栄禄を操ろうとする。

 

 長らく放浪して死に場所を探していた王逸は、はるか遠方で聡明な子供に出会う。毛沢東と名乗る少年が語る未来に自分も託す気持ちとなり、自分の学殖を全てその子に注ぎ込もうと決意する。

 

 梁文秀は日本に亡命する船中で、自分1人が生き延びた現状を受け入れられなかった。その思いを同行した玲玲に暴力であたるも、玲玲は笑って耐える。貧窮に苦しみ、兄と生き別れ、許嫁が刑死する場面を見ても泣かない玲玲を見て、梁文秀は己の政治に足りなかった「気持ち」を悟る。

 

 幼い頃未来が見えなかった季春雲は、白太太の予言を唯一の希望として生き抜いて、そして西太后の側で寵愛され立身した。現在は西太后の願いを察しようとし、そして叶えたいと願っていた。

 

 

【感想】

 物語が後半に入ると政治情勢も微に入り細を穿つ状態となり、天津のフランス租界に駐在する日米のジャーナリスト2人を登場させて、その視点から状況を説明する。この2人は解説だけでない役割が与えられるが、主人公の梁文秀季春雲の出番が少なくなったのが残念。

 

  *光緒帝(ウィキペディア

 

 但しこの2人が語る「プレジデント・リー」こと李鴻章は、物語の中でも強烈な印象を残す。内治、外交、そして軍事でも当時の第一人者として、周囲を魅了する人格で、時代が違ったら「皇位」に就くべき逸材。李鴻章も一度は色気を見せたが、王室から託された、始皇帝から受け継がれた天下を統べる証の龍玉が「まがい物」だったことで、己に天命がないことを痛感する。

 もう1人明晰な「為政者」がいる。光緒帝は梁文秀の献策をよく理解し戊戌の変法を信じる「志士」たちを許すが、終着点である「立憲君主制」に皇帝は存在しないと看破する。皇帝を1つの「官衙(役所)」と定義して、失政は皇帝の権威が失墜したのではなく、皇帝という「官衙(役所)」が押しつけたことに由来すると語らせている。これは「天皇機関説」の思想そのものである。

 

   日本における三種の神器か、それとも「ドラゴンボール」か。龍玉は果たして本当に「天命の印」なのか。儒教の呪縛に囚われた人間にとって抗しがたいが、呪縛に囚われない人間として、日本から伊藤博文を登場させている。野心も打算もそして確たる見通しもなく革命の渦に飛び込み、最初は夢中で先輩たちについていくのみ。山県有朋井上馨などの同志とカを合わせて、遂には思いがけない倒幕を果たし、立憲君主制を築き上げてしまった。天命は自ら開く。その象徴的な存在。

 1898年、若手官僚を中心に起こした決起したクーデター「戊戌の変法」はわずか100日で壊滅しでしまう。しかし日本の維新でも、最初に光明を灯した吉田松陰や続いて松蔭の灯に現実味を加味した久坂玄瑞高杉晋作など、伊藤博文の前には様々な先人たちが扉を開こうとして、中途で非命に倒れた。そして保守派の巻き返しによる「戊戌の政変」は、尊王攘夷に過激な長州勢力が薩摩・会津によって追い落とされた「八月十八日の政変」と重なる。

 

 骨太の構想を有する大河小説。史実とは印象が異なる西太后の姿や龍玉の存在。そして次代に役割を残した主人公たちのそれぞれに、清国の滅亡という運命が待ち受ける。韃靼の占星術で富と威の全てを司る星、昴が蒼穹(青空)の中で彼等たちを見つめながら、長大な物語は続いていく。

 

*戊戌の政変の2年後、義和団の乱の中で起きたミステリーを探る「珍妃の井戸」。舞踏会で謎の美女、ミセス・チャンがアン・ドゥ・トロァとステップを刻みながら、イギリス提督を「からめ取る」様子が秀逸です。

 

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