以下の内容はhttps://nmukkun.hatenablog.com/entry/2025/06/08/070200より取得しました。


16-1 蒼穹の昴 ① 浅田 次郎(1996)

【あらすじ】

 糞拾いで糊口をしのいでいた貧民の子の李春雲は、その境遇を恨まずに屈託なく生きていた。そんな季春雲に対して、過去に西太后に仕えた経験を持つ韃靼の占星術師・白太太が 「西太后の財宝を手に入れる」予言を与える。季春雲はその言葉を信じて、自ら去勢(浄身)して宦官を志す。

 

 梁文秀は郷紳と呼ばれる地方領主の次男に生まれる。俊英な長男に対して文秀は母が妾でもあり、常に長男の引き立て役を演じた。自らは両親から期待されないこともあり、貧民の李春雲と共に遊び、大酒を食らっては騒いでいて、自由奔放に過ごしていた。

 

 ところが梁文秀は科挙の予備試験にあたる郷試を、兄が不合格となる中合格して本試験にと進んだ。本番では隣の90歳を超える老受験生の魂魄が乗り移ったかのような回答を書き、第一等「壮元」で合格する。梁文秀は第二等 「榜眼」で合格した満州旗人出身の順桂、第三等「探花」で合格した同郷の王逸と共に、将来を嘱望される進士として官界入りを果たす。

 

 その頃の王宮は、幼い光緒帝の伯母にあたる西太后(慈禧)が、皇帝を支える垂簾政治を長年取り仕切っていた。西太后は知古という理由で悪名高い栄禄を抜擢する恣意的な人事権を振るい、胸を躍らせて謁見した新進気鋭の進士たちは、その姿を見て衝撃を受ける。しかし西太后はその実、亡霊となった不世出の名皇帝、乾隆帝から清国の治世を託されていた。乾隆帝は皇統の愛新覚羅一族では治世を立て直すことができないとして、韃靼族の流れを汲み、満州旗人出身の西太后に、悪名も一身に受けて政治を行う覚悟を日々求められていた。

 

  西太后ウィキペディア

 

 去勢した季春雲だが、宦官への道は遠かった。兄は出奔し、母は子に幻滅して自死し、残された妹の玲玲は、梁文秀に引き取られて下女となっていた。そんな時、黒牡丹と呼ばれる京劇の俳優が季春雲の前に現れる。西太后お気に入りの御用俳優だったが、らい病により宮中から身を引いた黒牡丹は、季春雲の才能を見抜いて特訓を施す。不出来な演劇に荒れていた西太后が、準備時間を与えずに難しい芝居を求めた際、季春雲は急遮代役を演じて見事な演技を見せた。季春雲は西太后から絶賛され、一躍抜擢されて西太后の側で仕えることになり、若くして後宮に出入りすることになる。

 

 そこで季春雲は梁文秀と再会する。梁文秀は優秀であるだけでなく、秀麗で周囲からの評判も高く、未来が嘱望されていた。しかし西太后の側に仕える季春雲は、栄禄や同じく私欲を貪る李蓮英など「后党」と呼ばれる保守派に囲まれていた。梁文秀は聡明な光緒帝を中心に「変法」と呼ばれる改革派の首領で、儒学者揚喜槙から目をかけられて娘婿となり、次代の政界を担う立場と見られていた。

 対立した両派はお互いの監視が厳しく、2人は会話自体が憚れる状況の中にいた。

 

*高等試験第三位を示す「探花」は、こちらでも使われています。

 

【感想】

   西太后による「垂簾政治」(皇太后などが、簾の後ろに座から幼帝にかわって行なう政治)により清国が迷走し、帝国主義華やかな時代の列強から、次々と清国の利権を奪われていった時期。作者浅田次郎は実名の皇族や政治家を交えながら、およそ2000年の歴史において王宮に生息した2つの「種族」、即ち科挙による「進士」と、去勢した「宦官」を主人公とした。その2人が運命の悪戯で歴史の分水嶺に置かれ、帝国が崩壊していく様子を目の当たりにする。

   梁文秀が次男として活発な幼少期を過ごしながらも、秀才の兄を追い越して科挙に合格する様子は、城山三郎著の「素直な戦士たち」を思い出した。東大至上主義の中での受験戦争を描いたこちらの作品は、結局兄による嫉妬で悲劇的な結末を迎えることになるが、本作品では梁文秀の科挙合格後、両親や兄の姿が描かれずに、妙にその後が気になった(最後の方で、梁文秀は実家とは疎遠だったと一言述べているが、成功者に「乗っかる」風土からして、それは有り得ないと愚考)。

 科挙の厳しさは、井上靖著の「敦煌」を想起する。3年に一度の科挙を受けた主人公が、試験の最中に寝てしまい失格となる冒頭部に疑問を持ったが、本作品で追い込まれた受験生が、時に倒れ、時に正気を失う様子を見て、神経と体力を磨り潰す長丁場の試験では、途中で寝てしまうのもあるかと思い直した。

 主人公のもう1人、季春雲。去勢 (浄身)の描写は、塚本青史著「蔡倫 紙を発明した宦官」で描かれたが、今回はそれよりも微に入り細を穿つ内容で、やや引いてしまう。但し季春雲は明るく、苦難にもめげずに修行してする姿は、天野純希著「覇道の槍」に登場する人物 (敢えて氏名は伏す)のよう。そんな修行が突然の「晴れ舞台」でスポットを浴びるのは、読んでいて予想ができても小気味いい展開。

 もう1人の主人公と言ってもいい西太后。中国史上では漢の劉邦の正妻である呂后や、唐時代の則天武后と並ぶ「3大悪女」と呼ばれているが、本作品では「訳あって」悪女を演じた、民からは慈愛に満ちたと映る人物に造形している。そのためにも清国の最大版図を築いた英雄、乾隆帝を「幽霊」として登場させているが、そこまで持ち上げるのはどうか。わがままで周囲を振り回し、自分の気分で百撃ちの刑を簡単に与えて家臣を瀕死の目に遭わせる。それだけでも為政者として失格と思われるが・・・・

 このあと更に1人、重要人物が登場する。その人物によって清国の政界は目まぐるしく回転していく。

 

 

*梁文秀のモデルとされる辮髪姿の梁啓超。経歴が非常に似ています(ウィキペディア

 

 よろしければ、一押しを m(_ _)m

 




以上の内容はhttps://nmukkun.hatenablog.com/entry/2025/06/08/070200より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14