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7 紅塵(宋金戦争) 田中 芳樹(1998)

【あらすじ】

 宋が建国されておよそ150年。爛熟する文化の中、8代皇帝徽宗(きそう)は遊興に耽り、賄賂と讒言に満ちて政道は大いに乱れた。そんな時に北方の女真族が立てた国が宋に攻め入ると、「軍弱な」宋は為す術もなく敗れる。しかも講和条件を宋は履行せず、しびれを切らした金は1126年に首都・開封を制圧、徽宗は譲位した皇帝欽宗や皇族・皇女たちとともに金に連行された(靖康の変)。

 

 宋は南遷して岳飛韓世忠ら「抗金名将」が金と抗戦を続ける。しかし金に拉致された後、なぜか無傷で戻った宰相の秦檜が金との和平を強硬に押し進める。岳飛らが攻略にあと一歩と迫る機会を再三潰し、最後は「莫須有(あったかもしれない)」罪で拷問にかけて、「救国の英雄」岳飛を獄死させてしまう。

 

 対して女真族の太祖阿骨打(アクダ)が建てた金国は、南宋西夏を攻略し勢力を広めた。その後3代煕帝を殺害して帝位についた完顔亮(海陵王)は酷薄な性格で、皇族や家臣を容赦なく殺害する恐怖政治を布いていた。

 

 南宋では秦檜の病死をきっかけに金への対決姿勢を強める。高宗は抗金の英雄の1人、韓世忠の子の子温に、金国皇帝の完顔亮の心中を探るべく、金への潜入を命じた。子温の母で美貌の梁紅玉は、韓世忠とともに戦場に立ち「女将軍」として活躍した女傑。長男子温の使命を知り、自らも同行する。

 

 

  

 *主人公の子温の父で「抗金名将」の1人、韓世忠(ウィキペディア

 

 「女将軍」の人脈もあって金国深く侵入することに成功した子温が見たものは、30年前に囚われた宋の皇帝欽宗が、同じく囚われた遼の天祚帝とともに、衆人の目前でなぶり殺しにされる姿だった。残虐な完顔亮は物資豊かな南宋を併呑して、自らの地位を高めることしか頭になかった。

 

 南宋に戻り復命した子温は、長江を防禦線として船と采石機と呼ばれる大砲を備えて後方を撹乱する作戦を立案する。戦いの前、梁紅玉は名誉を奪われた抗金の英雄、岳飛の詩を詠みながら華麗な踊りを見せ、王宮の決意を固めさせた。

 

 金は皇帝の完顔亮自らが60万の大軍を率いて南下した。准河の前哨戦を打ち破った金軍は長江へと迫る。しかし南宋の勇士たちは戦意を統一して、海戦に不慣れな金軍を打ち破る。完顔亮は敗れた将や軍勢に容赦なく死を与える一方、自らは金から連れてきた女性たちと快楽を貪る。皇帝から離反した金は、国元で従兄弟の完顔雍がクーデターを起こし、その報を聞いた金軍は遂に完顔亮を弑逆して南宋から撤収した。

 

 金は完顔雍が皇帝世宗として即位し、南宋と2回目の和解を締結して安定した治世を行なう。そして南宋も、太祖の血統を継ぐ孝帝皇位に就くと、国力の絶頂期を迎え、元に侵略されるまで114年の命脈を保つ。

 

 子温は誠実な職務を遂行し、順調に出世した。その中で岳飛の名誉回復に努め、没収された財産や散逸したものを回収して、遺族に返還した。

 

岳飛の墓の近くで、今も檻の中でひざまづく「売国奴」秦檜夫婦。私は戦後、シベリア抑留から帰国して赤化を進めた (と,される) 逸話を重ねてしまいます。

 

 

 

【感想】

 「銀河英雄伝説」の作者田中芳樹は、そのストーリーに「史記」の内容を数多く参考にした。そして脚光を浴びた「銀英伝」の後に上梓した中国を舞台とするの歴史小説は、先に挙げた「三国志」のあとの中国南北朝時代といい、今回の「水滸伝」のあとの南宋時代といい、「人の行く裏」を舞台としている。但し中国史に造詣の深い作者の選ぶ素材は、「花の山」と言えるほど興味深い。

 8代皇帝徽宗の時代には、政道が地に落ち数々の内乱が勃発した。そのため「兵弱」な宋を救うべく、乱暴者が梁山泊に集う「水滸伝(フィクション性が強く、ここでは取り上げませんでした)が生まれた。しかし10年後、今度は金という「外圧」がやって来て宋王朝、そして漢民族の危機を迎えた。皇帝・皇族・後宮の、万を超える人が金に連れ去られて屈辱的な扱いを受ける。皇妃はその扱いに耐えかね入水自殺をし、欽宗は30年間抑留された後になぶり殺しされるという、歴代皇帝でも類を見ない悲劇的な最後を遂げる。

 この国の窮地に対して「救国の英雄」として中国史上随一の人気を誇る岳飛らが活躍するも、金から唯1人無傷で戻った秦檜によって「罪も無い罪(莫須有)」で獄死する不条理がまかり通った。本作品はそこから、岳飛と並ぶ英雄の韓世忠の妻と子が活躍する一方、金の皇帝・完顔亮の冷酷な性格と南宋高宗の「不作為」により、金と南宋双方で有益な人材が失われていく。

 そのためか、金も南宋も共に後継者は「名君」とされて、その後は両国とも一時的に繁栄を取り戻す。しかし本作品では完顔亮が亡くなる1年前に、遙か北方の遊牧民族に、後に金も南宋も蹂躙するテムジンが生れた情報も添えて、将来両国が迎える過酷な運命も示唆している。

 

 あえて難を言えば、40年に亘る様々な「紅塵(浮世の意味)」を、時系列に逆らって挿入した構成。靖康の変による宋王宮の悲劇、「四太子」と呼ばれる金の武将と岳飛・韓世忠との戦い。南宋の秦檜と金の完顔亮の恐怖政治。その犠牲となる金の四太子と岳飛。金に拉致された欽帝の悲劇。その1つ1つが興味深いため、主題の部分が「挿入」のようになった感は拭えない。できれば上下巻のスケールで読みたかったもの。

田中芳樹岳飛伝は、中国の「説岳全伝」の翻訳版。勧善懲悪物ですが亡霊も登場し、本作品とはちょっと離れた作品です。

 

 南宋の名将の劉錡が戦場で書き的中した予見「完顔亮死於此」は、孫臏が「龐涓死於此樹之下」と記した木の下で死に至らしめた故事と重ねている。

 

 よろしければ、一押しを m(_ _)m

 




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