*Amazonより
【あらすじ】
曹州(山東省)で塩の密売業者の家に生まれた黄巣(こうそう)は、若い頃から俊英で名高く、周囲から期待されて科挙の合格を目指し長安に赴いた。しかし賄賂が足らず3年続けて落第すると、腐敗した政治から決別して自らを鍛えるために少林寺に入門する。6年修業の上、腺病質な体質から肉体は生まれ変わった。
折しも父が黄巣の科挙合格のため私財をはたいて財力が傾き、領地を支配する節度使への賄賂が細り、言いがかりをつけられて拷問で亡くなってしまう。時は唐末期で悪政がはびこり、生きるために農民たちの一揆が頻発していたが、節度使は事なかれ主義に徹して中央に報告せず、時代は乱世へと傾いていた。
同じ塩の密売業者王仙芝が唐の打倒を目指して挙兵したことを知り、黄巣も呼応した。日本から遣唐使で渡来した儒者の小野鷹麿を軍師とし、科挙を落第した秀才たちを帷幕に集める一方で軍規は厳しくし、民衆の支持を得る工夫をする。全国の塩の業者とネットワークを巡らし、一方で騎馬軍団として勇猛な韃靼族の王女の愛親覚羅凜が幕閣に加わり、先陣を担って攻撃力を発揮した。また途中参画した朱温も精鋭を率いて敵陣に深く攻め込み、戦場での活躍を見せる。
先に首都長安を目指した王仙芝は、唐の正規軍に完敗して戦死してしまう。それを見た黄巣は小野鷹麿の進言に従い、防御の厳しい第二の都市洛陽攻略を諦めて、周囲の攻略にかかる。一旦敗走して愛親覚羅凜が囚われるが、怒りに任せて政府軍を打ち払い、軍勢は60万を数えるまでに膨れ上がった。
ここに来て唐王朝も危険を悟り、皇帝を掌中に収め政治を壟断していた宦官の田令孜は、僅かな取り巻きを従えて皇帝と共に西の蜀へと逃げ込んだ。この機に乗じて長安に侵攻した黄巣は、皇族王女を筆頭に千をも超える王宮の人物を斬殺し、大斉を建国して自ら皇帝に即位する。しかし地方で勢力を張る節度使たちは黄巣に従わず、兵も長安で乱暴狼藉を繰り返したため、黄巣に対して民の心は離反していった。
その様子を見て、黄巣の配下の小野鷹麿たちが、1人また1人と離れていく。朱温を始めトルコ系武将の猛将の李克用、塩の密売組織の首領で抜け目のない李茂貞、そして政府軍武将の王重栄なども黄巣の敵に回った。黄巣は故郷へと落ち延びる途中で朱全忠と名を変えた朱温に敗れ、唐を実質的に滅亡させながら、自害に追い込まれた。
そののち知略に秀でた朱全忠は李克用を出し抜き、朝廷支配に成功して皇帝から禅譲を受けて国号を「梁」と定め新しい王朝(後梁)を開いた。しかしその支配は一地方に留まり、やがて疎遠だった息子から斬殺される。
*李克用。安禄山と同じく「国際国家・唐」を象徴しています。異名は「独眼竜」(ウィキペディア)
【感想】
安禄山に端を発した安史の乱で、唐王朝はその鎮圧のために、反乱軍の幕僚たちを節度使という、地方を支配する権限を与えて懐柔した。乱はそのため鎮圧したが、その後の争乱のタネとなっていく。
隋から採用された科挙の制度は、則天武后の時代に大量の官僚が採用され、唐末期には絶対的な存在となる。わずか数パーセントの合格率の試験は、次第に能力でなく賄賂による腐敗がはびこり、李白や杜甫も含めて有益な人材が落第する。
そして秦の時代からはびこる宦官。当初は人以下の家畜の存在と言われていたが、皇帝の近習として始皇帝の権力を背景にした超高が生まれる。その後も時折、皇帝に対して絶対的な存在となる宦官が生まれて、政治を壟断していく。
唐の末期はこのように軍閥・官僚・宦官の3つの勢力が、宮廷の内外で主導権争いを繰り広げていく(旧ソビエト時代の軍・党・KGBの構図を思い浮かべる)。そのため一揆など自分の不始末となる事柄は、中央に報告されない事なかれ主義がはびこる。そんな中で生活に困り、飢饉によって民が多く流浪すると、食を保証する「英雄」に集り、段々と「英雄」は巨大化していく。その象徴が黄巣だった。
黄巣は例えば前漢の劉邦や後漢の劉秀のような可能性を秘めていた。しかし当時は辺境を中心に軍閥が割拠して独立を保ち、それらを糾合する「力と理念」が乏しかった。王都長安を制圧した黄巣軍は、黄巣の思いから離れて蹂躙を重ねる。それは秦を破った項羽の軍隊であり、日本では平家を京から駆逐した木曽義仲の軍でもある。
結局黄巣は、唐に変わる政治体制を敷くことができなかった。太古から中華文明の中心にあった長安は落日を迎え、その後地方の軍閥が群雄割拠する五代十国時代に至る。一方で王女の愛親覚羅凜を登場させて、朱温の持つほのかな思いを伏線として、後に黄巣と袂を分かつ「トリガー」として物語に膨らみを持たせた。

*朱全忠(朱温)。黄巣軍から一転して唐側に寝返り、その後李克用を葬り唐王朝を滅亡させますが、好色家で子と仲が悪く、その1人に殺害されます(ウィキペディア)
私は黄巣を当初は秦末期の超高、漢末期の王莽と同じような「簒奪者」の印象を受けていた。しかし唐が税を高めた塩の専売制度を、廉価で民衆に供給した闇販売から生まれた叛乱は民を味方につけ、一時は地元の英雄と持ち上げられた。太公望が建国し、塩の専売で春秋戦国時代の強国として君臨した「斉」を名乗り、王国を築いたのは間違いない。現在では黄巣は評価されているという。
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