【あらすじ】
梁の武帝は、小姓の陳慶之に戯れに教えた囲碁の実力に驚嘆する。兵学を学ばせると飲み込みが早く、陳が求める白馬300頭を与えた。陳は武帝と共に斉を打ち破った老将韋叡や、好色で酒癖が悪いが、文武の能力に秀でる曹景宗らに可愛がられる。そのころ北朝は北魏。皇族の中山王元英が率い、関羽や張飛も及ばないとされた豪勇・楊大眼を副将とした軍勢の強さが、周囲にも鳴り響いていた。
滅亡した斉の皇族が北魏に亡命する際、建康(南京)で起こした火災は大きな被害をもたらした。これにより梁の武帝は激怒し、北魏と梁の戦いが勃発する。梁は北魏の前線基地で水上要塞とも言える合肥城を、老将韋叡が水攻めで攻略に成功する。そして更に30万におよぶ軍勢を合肥に集め、大将に武帝の弟の臨川王を抱いて、北への進軍を進める。
その報を聞いた中山王は20万の兵を率いて軍を向けたが、梁軍を率いる臨川王は吹き荒れた暴風雨に怯えて、何と大将自らが逃亡してしまった。士気の落ちた梁軍は北魏軍に蹂躙されて、5万の被害を受けて建康に逃げ込む羽目に陥る。中山王は凱旋した後、更なる勝利に向けて進軍する。
*三国志から随の統一に至るまでの王朝の変遷(東京国立博物館HP)
中山王は80万の大軍を率いて、まずは合肥の下流にある都市、鍾離を目指した。水城である鍾離城に対して、北魏軍は周囲を埋め立てて城を踏み潰そうとする。鍾離城の兵はわずか3千だが、そこに300騎の白馬の一隊が突如現れて、巨大な北魏軍に突撃する。急所を突かれた北魏軍はたちまち混乱して、戦死者3千、負傷者1万にも及ぶ被害を受けた。陳慶之は初陣を勝利で飾り、白馬の一隊は北魏軍に強烈な印象を残した。
その後、老将韋叡の知恵から一夜にして長陣を完成させたことで、中山王が予定していた短期決着の構想は潰えた。両軍の対陣が半年に亘る中、梁山伯(「泊」ではない) は決死隊として城から抜け出し、梁の本軍と連絡を取ろうとするが捕らえられて、恋人の祝英台の面前で処刑された。その光景に絶望した祝英台も自刎して果てる。
大雨が続く中、北魏の中山王は雨が止むのを待った。しかし梁は雨を利用して、いくつにも分かれる支流を利用して縦横無尽に攻撃をしかける。軍勢では圧倒する北魏軍が、混乱の中次々と崩されていく中、陳慶之が率いる白馬隊300騎が再度戦場に現われる。北魏軍は突如の出現に驚き右往左往する中、梁軍は敵の背後を船による攻撃を仕掛けて火の海として、北魏軍は戦死者10万、水死者10万、捕虜5万と言われる大損害を受けた。
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*「梁山伯と祝英台」の悲恋の物語は中国四大民話の1つ。本作品ではストーリをアレンジして挿入しています。
【感想】
華北の鮮卑と呼ばれる民族が北魏を建国する439年から統一王朝の隋が建国する589年まで、華北と華南でそれぞれ王朝が交代する時代を南北朝時代(中国)という。華北はシルクロードの交易によって富を築いた。一方華南は4国が王朝を交代したことから、三国志時代の呉や東晋を加え六朝とよび、商工業や文化の興隆で繁栄を築く。
首都建康(南京)の人口が100万人を数えるまでになり、陶淵明や王羲之といった文化人が活躍する「六朝文化」が花開いた。しかし各王朝はことごとく「暗君」が即位するため長続きしない。対して「倭」はまだ黎明期で、ヤマト朝廷による統一の途上の時代。宋の時代には倭が使節を送り、「倭の五王」として記録されている。

*史記を始め中国の古典を戦術の参考にした、田中芳樹原作の「銀河英雄伝説」
「戦の天才」陳慶之を中心に描く登場人物たちは、作者田中芳樹の代表作「銀河英雄伝説」を思い浮かべる。私は当初「銀英伝」と中国の歴史小説は繋がらなかったが、作者は「史記」など中国の古典を「銀英伝」の戦術の参考にしたと語っている。加えて本作品は、城の堀を埋めるのは大坂夏の陣を、一夜で陣を築き上げるのは小田原の一夜城を、包囲軍を突破しようとして敵に捕まり処刑されるのは長篠城攻防と、日本の合戦絵巻も透けて見える。
兵法家としては抜群だが、武術も馬術も拙い陳慶之。しかし後に北魏の混乱につけ入り、わずか7千の「白袍隊」を率い、47回におよぶ戦いに悉く勝利して洛陽に入場した挿話を最後に記している。ところが助け出した北海王は洛陽に戻ると、陳慶之を見向きもせずに酒池肉林に明け暮れる。呆れた側近が陳慶之に、自ら即位すべしと提言するが、陳慶之は一笑に伏して洛陽から立ち去った。同じ立場にあった韓信と異なり、武将としての一分を超えなかった陳慶之は「仁威将軍」と呼ばれ民から慕われ、不敗のまま56歳で亡くなった。
そしてこの時期「暗君」が続き、混迷は長期化する。南朝の梁は陳に代わり、北魏は北斉と北周の2つに分裂する。北斉は皇統を継ぐ秀麗の武将の蘭陵王が活躍するも、暗君と奸臣による嫉妬から、謂われ無き罪を被り若くして死罪にされた。ここで北周が中国を統一せんと乗り出すも途上で武帝が崩御し、後継がまた暗君。そこに登場したのが、隋を建国する楊堅だった。
後漢王朝末期から続く、暗君たちによって長く続いた混迷の時代。暗君たちの自滅によって、長いトンネルの出口が見えてきた。
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*田中芳樹が同じく南北朝時代を舞台にした作品です。美貌を謳われた悲運の武将は雅楽の題材になり、三島由紀夫の小説にもなりました。
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