- 価格: 1056 円
- 楽天で詳細を見る
【あらすじ】
人質として趙にいる秦の公子異人を、商人の呂不韋は「奇貨居くべし」と目をつけ、大金を投じてエ作を行い、次期太子の座に就ける。異人が呂不韋の妾の朱姫を気に入ると、呂不韋の子を宿したまま朱姫を譲り「政」が誕生した。秦が趙を攻めると異人は呂不韋の手引きで秦へ脱出するも、政は母と置き去りにされた。政は不安な立場で逼塞を余儀なくされる。
政が10歳のとき、曾祖父と祖父が立て続けに薨去すると、異人が急遮即位して呂不韋は丞相に任命された。政は母の朱姫と共に秦の都威陽に迎えられるが、王宮での生活は狡猾な異母弟の成蟜が挑発を仕掛け、太子の座を引きずり倒そうとするため、日々緊張を強いられる。
父の荘襄王は3年で薨去し、13歳で政が王位を継いだ。政は真っ先に嫌がらせを続けた成蟜を軍隊に押し込めると、成蟜の母は不満から、政は呂不韋の子と口走る。政は息子が亡くなったと信じ込ませて、自死に導き復讐を遂げる。
呂不韋は太后となった朱姫から関係を求められると、色欲に強い嫪毐(ろうあい)を宦官に扮して王宮に入れる。太后が2人の男児を生むと嫪毐は野望を持ち、軍隊にいた成蟜と呼応して反乱を起こした。政は激怒して嫪毐を車裂の刑に処し、2人の子も殺害する。しかし政は、実の父である呂不韋と母の太后を死罪にはできない。太后は謹慎とし、呂不韋は罷免の上蟄居が命じられた。政は更に蜀への流刑を命じ、悟った呂不韋は服毒自殺する。
韓の鄭国が政に灌漑工事を勧めたのは、秦の財政を疲弊させる目的だったことが判明した。大臣たちは他国の人間を追放する「逐客令」を提案するが、楚出身の李斯は衛国出身の商鞅以来の秦の政道を説いて反対する。その中で政は李斯と同門の韓非子の考えに驚嘆した。法を重んじながらも王の振る舞いを説く韓非子は、政の理想でもある。しかし韓非子の重用は周囲の嫉妬を招き、韓非子も鄭国の企みに関与したとして罪を嵌められてしまう。
*始皇帝
紀元前230年、韓は陽翠が陥落して王が捕縛されて滅んだ。紀元前228年は、趙に内紛が起き王は捕虜となって秦に併合される。小国の燕は武カでは叶わず政の暗殺計画を行うが失敗し、激怒した燕への総攻撃を仕掛け、間もなく滅亡する。
魏は信陵君を失い弱体化していた。紀元前225年大梁を包囲すると魏は耐え切れず降伏する。同年秦と並ぶ大国の楚との戦いに入った。政は最初20万の兵で攻撃をするも楚軍の猛追に遭い大敗すると、次に全軍に匹敵する60万の兵を擁して、紀元前223年に楚を滅ぼした。最後に残った斉は、秦に攻められて無抵抗のまま降伏し滅んだ。
天下統一成る。時に紀元前221年、政は39歳であった。新たに「皇帝」の称号を下した政は、宦官の趙高を身近に置き、徐福が語る不老小死の薬を追い求め、全国を巡業する。しかし自ら仙人になることを目指した政は、崖から飛ぶもその願いは叶わず、波乱の生涯を閉じた。
【感想】
宮城谷昌光の「奇貨居くべし」は呂不韋を好漢として描いているため、始皇帝を呂不韋の子とせず、また妾の朱姫に対して呂不韋、そして嫪毐との関係も、色欲からは離して描いた。
しかし本作品では、一般に流布されている「奇貨居くべし」の挿話に沿って、宮城谷作品とは「裏返し」とも言える内容。しかも異母弟の成蟜を登場させて、狡滑で始皇帝を恨み、後に嫪毐と計らい始皇帝に対して叛旗を翻す役割を担わせている。対して始皇帝は成蟜や嫪毐には徹底した報復を行う一方、「孝」を重んじる立場から父と母に対して厳しく処罰できず、その気持ちを乗り越えることで本当の「皇帝」になるプロセスを描いている。その底流には、子供の時に趙で母と残された不安な日々が流れているようで、始皇帝からの視線は物語を通じて、常に冷めている印象を受ける。
天下統一を成し遂げたが、政が成長した時は既に秦の1強時代に入っていた。戦国4君の内の3人、韓の平原君、魏の信陵君、楚の春申君らが秦を排した「合従」を駆使して一度は秦に一矢を報いたが、秦が覇者として君臨する流れは変わらなかった。
登場人物を配した本作品の章題が図らずも描いているが、当初は呂不韋や李斯などの「身内」が側近として仕える。王の権威が高まると鄭国や韓非子など(他国の)専門家が活躍する。これは楚出身の李斯が語ったように、衛出身の商鞅以来「外国の血」を上手く導入して、秦を強国に成長してきた歴史と呼応する。
*徐福は不老不死の薬を求めて海を渡り、和歌山県新宮市に辿り着いた伝説があります(新宮市HP)
ところが「皇帝」となると、趙高や徐福など始皇帝に取り入って自身の栄達を望む「怪しい」者たちが集まり私利私欲を貪ろうとし、時には儒者を中心とする大量の学者を生き埋めに処する「坑儒」も行う。坑儒に対して諫言した長男の扶蘇は、遠方に追いやられて王宮から離されたが、このことが扶蘇と秦国の運命の分かれ目になる。
これは信長と織田信忠を同時に亡くした、織田家の運命と重なる。
よろしければ、一押しを m(_ _)m