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【あらすじ】
商の王、帝乙が崩御した。死に対して従者の付き添いが必要という理由で、関係のない羌族が犠牲となる。羌族は人々を斉(ひと)しいと考えたため指導者がなく、優秀な民族にも関わらず武力は乏しかった。父は子の望(後に太公望)に「狐竹へ」と遺言して亡くなり、望を含め6人の子供たちが残される。望には、商への復讐心が宿される。
望は弟たちを連れて遙か北東にある狐竹を目指した。その途上で自然界の霊徳を受け入れ、苦難には蓄えた資質を駆使して乗り越え、また幸運にも助けられる。望の前に現れた鬼方の主は、望が優れた心機を持つと見抜いて迎え入れた。鬼方は西北の大族の王で、東北の大族の土方に匹敵する勢力を持っていた。
望は商に復讐するため、鬼方と土方を糾合して商に対抗しようと考える。その中間にある箕邑は、商王受の叔父で宰相の箕子の領地。そこに箕子が土公を連れて来ることで、望はこの時代を代表する3英傑と出会った。会見の中で異民族が続々と商に人朝することが判り、鬼公に替わって土公が希望と共に狐竹に向かうことになる。
狐竹には山岳の神とそれを祀る君がいて、ともに伯夷と呼ばれていた。狐竹では争いは許されず、様々な事情を抱えた種族が集って祭祀に参列している。望はその中でも商を倒す野望を隠そうとせず、戦いに必要な知識を得ようとしていた。そんな望を山岳の神が呼んだ。
峻厳の谷を渡ると、そこに1人の老人が望を待っていた。望は老人から初めて剣を見せられ、その使い方を学ぶ。同時に老人は商への復讐心を諦めるように、呪力を用いて精神的に追い込むが、望は決して諦めない。やがて老人は修行を終えたと告げるが、望は商の国力の根源にあたる文字と呪力を知りたいと願った。箕子の命は奪わない約束で、老人は文字のみを教えた。そして2年の歳月が過ぎ、望は19歳で洞窟を後にする。
望は翌年狐竹から出立して、商を倒すために旅を続ける。その頃周公を中心に、商の暴政に対抗する勢力が結集しようとしていた。この話を望にしたのは、周公の子でのちの周公旦である。望は旦に知恵を授ける。「さきに立たず、さきに攻めず、さきに勝たず」。三公が商王朝打倒の兵をあげても、周公にはまずは静観してもらう。
商の受王(紂王)の全盛期に、王朝転覆の陰謀があちこちで立ち上がる。その中で望は兵法家として評判になっていく。神意によって軍を動かす時代にあって、用兵とか戦略といった、合理に基づいた思想は新鮮だった。そんな望にとって、最もわかりにくいのが周公であった。周公は自分のことを外に見せないように心掛けている。望にとって周公は得体がしれなかった。

*商と周。そして太公望が修業に赴いた孤竹の地理(本書より)
【感想】
釣り人の代名詞でもある太公望。針のない釣り竿を持って、日がな一日釣りをしていた望を、周王が見て取り立てたと言う挿話。そのため七福神で釣り竿を盛っている漁猟の神様、えびす様と混同してしまい、のんびりとした人物と思いながら本を手に取りました💦
ところが読み進めると、そんな先入観はすぐにふっ飛んだ。幼少期に理由もなく部族が襲われ、両親や身近の人々が殺されると、復讐の鬼に変貌する。そのために厳しい修行にも耐えて自らの能力を高めていき、自分を使いこなせる王を探して周囲を糾合し、そして最後にその目的を果たしていく。
狐竹の山中にある洞窟での修行。指導する老人の役割は「スターウォーズ」のヨーダとシンクロする。金属でできた剣が貴重で神秘的な時代、太陽は「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10干とされて、これを敬う商の霊術的な教えを説く。それを超える能力を得ようとするのは、まさに「フォース」を連想させる。
以前取り上げた「天離り果つる国」でも交錯する、スターウォーズに内包する東洋の神秘。本作品は中国史上最凶ともいえる「悪の皇帝」が、太公望を待ち構えている。そして側に仕えて「殺してはいけない」と諭される箕子は、ダースベイダーの役割か。デビュー作「王家の風日」で、倒される側にある箕子を主人公に据えた宮城谷昌光。しかし忘れ物を取りに来たかのように、本作品で「商周革命」を丹念に描き直しているように思える。
そしてもう1つ。望は商が生んだ偉大な文明「文字」を学び、商を知ろうとする。それは商の高宗武丁が苦難を乗り越え文字を生み出すまでを描いた、宮城谷昌光の短篇「沈黙の王」に詳しく、後日取り上げたい。
*原典の十八史略を元に太公望の登場を描いた、暖淡堂さんのブログも合わせてどうぞ。
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