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【あらすじ】
夏王朝を継いだ商(殷)は550年ほど中原を支配した。その28代国王の子の箕子(きし)は北の遠国に配されたが、民から慕われる治世を敷いていた。そのうちに父が崩御し長兄の羨(えん)が王位を継ぐ。箕子は中央に戻るが羨とは相性が悪く、無聊をかこっていた。
羨は亀の甲羅を使った亀卜(占い)に凝り、弟の干子(かんし)は兄の命令で異族の九候に亀を所望する役目を担う。得た亀で祭祀を営み、祭祀が増えると器具が必要になる。器具を作るには銅が必要となり、銅山開発には奴隷が必要となる。そのしわ寄せは羌(きょう)族に向かった。
羨后は帝乙と名乗り専制君主となる。帝乙の横暴な政道に対して諸侯の心は離れていくが、地方を治める箕子には皆心服していた。やがて羨が崩御すると、箕子が以前から見所があると見ていた帝乙の三男の受が後継となった。その陰で帝乙の死を知らない羌族を商が襲う。この戦いから生き延びた少年に、望(後の太公望)がいた。
ようやく父の喪があけて受が即位し、帝辛(紂王)と名乗る。そこに周の姫昌王が長子の伯邑考と共に入朝すると、姫昌王は周候と呼ばれ、干子の仲介で来朝した九公も九候と呼ばれることに。但し九候は商に心服しているわけではなかった。
即位後、紂王は東方と南方を結ぶ要路の黎で狩りをすると布告すると、戦を招きかねないとして箕子は戦慄する。また紂王は全ての諸侯に人質と財貨である玉を要求し、当惑する諸侯に「炮烙の刑」*という残虐な処罰で脅した。紂王は従わない蘇を成敗しようとすると、周侯の説得で蘇は臣従の証に娘の妲を紂王に差し出した。妲は妲己(だっき)と呼ばれ、紂王の寵愛を背景に国の財宝を欲しいがままにする。
*「炮烙(ほうらく)の刑」:人を銅の柱に縛り付け、銅の柱を熱して人を焼き殺す刑罰。
*箕子(ウィキペディア)
紂王が東方へ親征し中央を不在とした10ヶ月に事態は動く。九侯は商から離反し、紂王は驚愕して誅伐を企てる。その冬に紂王が妲己の歓心を得るために開かれた盛大な宴は、食肉をつるし酒をもって池となす「酒池肉林」と呼ばれた。民は重税で虐げられる。
妲己は紂王の寵愛を受け権勢を握り、恨まれた西周の尹佚(いんいつ)は命を狙われる。周候は尹佚を助け出す替わりに捕吏に捉えられてしまい、監禁されてしまった。周候を救い出すために、商の襲撃から生き延びた望(太公望)が動き出す。望は強い意志を持って、武力で商を倒すことを念願としていた。望はそのために、周候の側について商を打倒する策略を巡らし、その時機を探っていた。
*紂王(ウィキペディア)
【感想】
商(殷)王朝は紀元前1600年頃に成立し、紀元前1046年に滅んだとされる。夏王朝の最後の帝である桀は女色に溺れ、酒の池に舟を浮かべて肉山脯林を行ない、諸侯の離反を招いたために王朝が商(殷)に代わった。そして商も最後の帝である紂王により、酒池肉林などにより諸侯が離反して周に取って代わる。天子の徳がなければ天命が別の姓の天子に改まる、即ち「易姓革命」を招いたとされる。
実際にこの後太公望らの策略で、共に50万を超える(今からおよそ3000年前に!)大軍が「牧野」で激突するが、商の兵は戦意が乏しく雪崩のような大敗を喫して滅亡した。それまで商は何度も周を討伐するも、「周は攻めるたびに国勢を盛り返す不思議な力を発揮して」最後の決戦に臨んだ。
商と周の違いを作者は、商は祭礼により政事を運営するのに対し、周は「人間が政治を動かす」、当時としては画期的な考えを有していたとしている。しかし商も建国当時は優秀な民族と見做されていた。
箕子は元々甥の紂王を評価していた。歴史は勝者の周にから描かれたため、紂王を悪人と扱い周の大義名分を立てたが、実際の紂王はそれほどの悪逆非道ではなかったという説もある。但し紂王の愛妾である妲己については歴史上の悪女として、呂后、則天武后、西太后などと並び称される存在。明の時代に書かれた「封神演義」では九尾狐狸精とし、商周革命を実現させるために遣わされたとされ、人間扱いされていない。
「天空の舟」と本作品は、人物の相関図を見ると驚くほど似ている。しかし宮城谷昌光は「天空の舟」では王朝を倒す側、本作品では王朝を本来守るべき側の人物を主人公に据えた。紂王が暴君化すると、箕子は弟の干子と共に甥の紂王を何度も諫めるが、聞き入られずに干子は殺され、箕子は発狂を装ったとしている。のちに周の武王が箕子を招聘し、政治の問答をしたところその博学に驚嘆して、箕子を敢えて家臣にはせずに、箕子朝鮮を建国したとされている(但し朝鮮側は認めていない)。
本作品は実質的なデビュー作。あとがきに書かれた出版に至る経緯は興味深い。日本語で使う漢字は仏教の「臭い」がするとして、語源を遡るために金文や甲骨文字まで独学で学び、「史記」全文を筆写するなどの「修行」を課したそう。それでも商業ルートに乗るとは思えず知人の「情け」で500部印刷したが、その内の1冊が司馬遼太郎の手元に渡り激賞されると、研ぎ澄まされた文字感覚が評判を得ることに。
「天空の舟」とこのデビュー作で、作者は中国の底流を流れる「易姓革命」が何たるかを示した。しかし本作品だけで「商周革命」は語り足りなかったようで、後から商を「倒す」側の作品も発刊する。それを次に取り上げます。
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