以下の内容はhttps://nmukkun.hatenablog.com/entry/2024/11/30/070200より取得しました。


8 天下城 佐々木 譲(2004)

【あらすじ】

 武田信玄信濃国志賀城を攻め、城は抵抗むなしく落ちる。子供として籠城していた市太郎は、従兄弟の辰四郎と一緒に武田軍に囚われると奴隷にされて、金山衆として鉱山の発掘を強いられる。過酷な生活を何年か過ごしたある日、金山衆は信玄の戦いに従軍したが、そこで武田軍は砥石崩れと呼ばれる大敗を喫してしまう。敗戦で混乱する中、市太郎は金山衆から脱出し、武田家と敵対する村上義清の家来衆に紛れ込むことに成功した。

 

 そこでは兵法者の三浦雪幹が招かれて、家臣たちに兵法を教えていた。市太郎は講義に耳をそば立てて聞くことで、兵法についての興味が湧く。志賀城の地獄のような情景を目の当たりにした市太郎は、決して落城しない城を造ることを夢見て、三浦雪幹の弟子入りをする。各地を巡り、城を眺め、時にザビエルから南蛮の築城術などを教えてもらい、自分なりに城に対する知識を深めていく。

 

 師の雪幹が亡くなると、市太郎は路頭に迷う。食に事欠く中で、偶然石垣積みの穴太衆に出会い、石積みを手伝うことで食事にありついた。穴太衆の棟梁作兵衛は、金山衆としての経験と独自に磨いた戦術眼にから、市太郎には石積み職人としての資質かあることに気付く。市太郎は悩むが、遂には石積み職人として「落城しない」城造りの仕事を選択する。

 

 頭領の作兵衛に従って各地を周り、石積み職人として経験を積み技術を磨き、腕を挙げていく市太郎。堺では鉄砲による攻撃を防ぐため堀を二重にして、ザビエルから学んだ新しい城造りを実現し、その斬新な発想は偶然出会った織田信長から認められる。また松永久秀から依頼を受けた、日本で初めての総石垣造りによる多聞山城は、石垣の美しさとともに近隣からの評判を呼ぶ。しかし棟梁の息子源太郎は、そんな市太郎が目障りで仕方がない。市太郎は作兵衛の娘を娶ることで、石垣積みを一生の職業とする決意を固めたが、それとともに源太郎への配慮もせざるを得なくなった。

 

 地元浅井家の、小谷城の石垣を築いた市太郎は信長に呼ばれ、叛旗を翻した浅井攻めのために、城の弱点を教示するよう命じられる。しかし市太郎は職人の衿持として、雇い主の情報を敵方に渡すと、今後誰にも信用されなくなる、と考え答えない。その態度を見ると目に怒りを浮かべ、太刀を片手に市太郎に近づく信長。市太郎は死を覚悟するが、秀吉の必死の取り成しで命は救われた。

 

 

安土城跡に残る石垣(安土城の公式サイドHP)

 

 冷静さを取り戻した信長は市太郎を信用して、長篠の戦いにも駆り出される。そこで従弟の辰四郎と再会し、志賀城で辰四郎の妹を奪った憎き山県昌景の首を狩る所を目撃する。

 

 天下は信長に定まった。天下城と言える安土城を築く決意を固めた信長は、石垣積みを市太郎に任せるが、それは市太郎も念願だった「難攻不落の城」を築城することにも通じていた。見栄えに加え、用途と防御も考えながら石垣を積んでいく市太郎。その仕事は完成は生涯の技を全て注ぎ込んだものだったが、信長が本能寺の変で亡くなると、市太郎の思いと裏腹に、安土城は火に包まれて落城していった

 

 

【感想】

 井沢元彦著「信濃風雲録」でも描かれた、印象的な志賀城落城のシーン。武田信玄の残虐性と「戦国の捉」を表す「地獄」の中にいた市太郎が、やがて奴隷の立場から這い上がり、落城しない城を造ることを願い石垣積みとして腕を上げ、様々な戦国武将から認められていく。その姿を見ると、なぜか映画の大作「ベン・ハー」を思い浮かべる。

 

 

*映画「ベン・ハー」は、貴族の子が濡れ衣から奴隷に落とされるも、母と妹を救うために生きる希望を失わない物語。仇敵との戦車競走は圧巻でした(映画.com)

 

 戦士たちの大半は死に、女たちは城主夫人を始め各地に売られ、子供たちは幼くして家族と生き別れになる。歴史小説では、このような過酷な運命をくぐった少年が成長していく物語が数多くある。本作品で登場する松永久秀豊臣秀吉もその1人。そこから市太郎は自らの道を見つけ、そして認められていく。

 そんな中で、生き別れになった従兄弟の千草とは堺で、そして辰四郎とは戦場で偶然邂逅するのは「ご都合主義」かもしれないが、悲惨な運命に見舞われた登場人物が救われる、心を和ませるシーンは欠かせない。

 警察小説を始め様々なジャンルを描く佐々木譲は「穴太衆」に対しても思い入れが深いのか、「獅子の城塞」では石垣造りのために、市太郎の息子次郎佐が遣欧使節団に随行して、ヨーロッパの築城術を学ぶ物語にまで話を広げている。

 

 

 当初は石垣積みの話に何で上下巻と思ったが、読むと余りにも深い内容で、すぐ物語に没頭した。石垣積みがどれだけ奥が深く、また戦国の世で重要な役割を担ったかを知ることができた。城攻めで次第に「お前が積んだ石垣の城だから、攻めるのに苦労した」という武将たちと市太郎の交流は、ある意味清々しい。

 小谷城の弱点を信長に問われるも、命を賭して答えないその職人の衿持は、山本兼一著「雷神の筒」で同じ信長から、鉄砲を敵に売ったとして死罪を命じられる国友村の鉄砲鍛冶、藤兵衛の覚悟にも通じる。この職人の矜持は本作からやや時代が下り関ヶ原の前哨戦で、今村翔吾が石垣造りの穴太宗と鉄砲の職人の国友衆が、最強の「盾と矛」で対決する作品 「塞王の楯」へと発展し、直木賞を受賞するまでに至った。

 

 この後、加藤清正朝鮮出兵で新たな石垣積みの技術を得て、熊本城を始め見事な石垣を造り上げる。その城郭は明治時代になって、西南戦争薩摩隼人の進軍も食い止めた。近年になって地震によって崩された美しい石垣は、復旧するために何年もかかるという。そんなことを考えると、ひたすら人力で石積みに携わった市太郎の役割の大きさに、改めて感じ入る。

 

 よろしければ、一押しを m(_ _)m

 




以上の内容はhttps://nmukkun.hatenablog.com/entry/2024/11/30/070200より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14