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【あらすじ】
三河以来の名門旗本に生まれた小栗忠順は、子供の時から文武に秀で、また胆力もあり将来が嘱望されていた。しかし自己主張が強く、時に周囲から煙たがられる存在でもあった。33歳の時日米通商修好条約の調印のため、目付(監察)として渡米するが、その時密命を受ける。銀の交換レートが不公平のため、日本では極端なインフレーションが進んでしまったため、是正するように、ということだった。
小栗は、目付では交渉する権限がないとして難色を示すが、為替の交換レートとその影響を正確に理解できる者は使節団にはいなかったため、善処すると回答する。小栗以外ではアメリカ人相手に交渉はとてもできず、堂々と対応していた小栗が日本の代表と見なされる始末。
小栗は小判と金貨の分析実験をもとに、為替レートの不公平を証明したものの、比率の改定までは至らなかった。しかしこの交渉によってアメリカ人から賞賛を受け、反対に私欲を得たハリスの評判は下がり、アメリカでは不遇のまま晩年を送った。小栗は製鉄技術などを見学して日本との差に驚愕し、記念にネジを持ち帰った。
帰国後は外国奉行に就任するが、l861年ロシア軍艦による対馬占領事件が発生、対馬藩の領土に幕府が介入することに限界を感じ、失意の内に外国奉行を辞任する。翌1862年には勘定奉行に就任し、今度は幕府の財政立て直しを図る。南北戦争で疲弊したアメリカに代わってフランスに接近、反対を押し切って外国艦船の莫大な購入費と製鉄所建設についての具体的な提案を練り上げた。また陸軍の力も増強するため、日本初の西洋式火薬エ場を建設し、小銃・大砲・弾薬等の兵器・装備品の国産化を推進した。
財政、経済そして軍事の各方面で政策を推進し、着々と幕府の立て直しを図る姿は、討幕派も恐れを抱いた。幕閣内の「獅子身中の虫」と見られる勝海舟に対して、長州・薩摩をも滅ぼし、幕府を中心とする強力な中央集権国家を作り上げる構想を敢えて吹き込み、討幕派と誼を通じている勝をけん制する。
しかし15代将軍慶喜に朝廷と対決する肚はなく大政奉還を行い、鳥羽状見の戦いでは、官軍を前にして大坂から江戸に逃げ帰ってしまう。慶喜の江戸帰還後、小栗は陸海軍を連携した徹底抗戦を主張する。しかし慶喜はこの作戦を退けて勝海舟の恭順論を採った。
恭順と決まった幕閣に強硬論の小栗に居場所はない。小栗は再度のお役御免となり、領地の高崎に引っ込んだ。しかし官軍は小栗の実力を恐れた。東山道を進んだ官軍によって小栗は捉えられ、取り調べもないまま斬首される。小栗は弁明する機会を与えられないままその命を刑場の露と消えた。享年42歳。
【感想】
物語の冒頭は為替レートの是正についての話題がかなり詳細に扱われているが、これは作者佐藤雅美のデビュー作「大君の通貨―幕末「円ドル」戦争」による所が大きい。また佐藤雅美は幕臣の川路聖謨を「立身出世」で描いている(取り上げるか迷いました💦)。勝海舟と同じく「御目見得以下」の御家人の小禄の身分から、勘定奉行や外国奉行などを歴任した幕末の官僚。睡眠時間は毎日2時間、仕事に全てを捧げたが幕末に体を壊し引退し、大政奉還によって幕府に殉じて自決する。
対して小栗忠順は三河以来の名門旗本に生まれ、徳川家一途の忠義の塊だった。そんな小栗から見ると、勝は幕府の裏切り者であり、そして倒すべき政敵であった。
*小栗上野介と、三井の三野村利左エ門の交流を描いた作品です。
そんな「頑固者」に思える小栗だが、中間だった三野村利左エ門と、家臣とは思えない細やかな交流を続け、三井に入った三野村を感謝させている。三野村は、小栗が左遷されたことで幕府に見切りをつけて新政府軍に取り入って、後の三井財閥繁栄の礎を築いた。
そして小栗が官軍の東征に対して提言した「東征軍が箱根を越えたところで迎え撃って、同時に海軍を使って駿河湾で補給線を断ち、孤立した官軍を壊滅させる」軍略は、大坂の陣の前に亡くなった真田昌幸が幸村に授けた策にも通じて、後からその戦略を知った官軍の参謀大村益次郎を震憾させた。このように有能な人材だからこそ、官軍はその存在を恐れ、命を絶つしかなかった。
フランスから借款をしてまで幕府を生き永らえようとしたために、批判する者を多いが、その1人である司馬遼太郎も、小栗を明治国家の父を呼んでいる。横須賀製鉄所を建造し、その責任者として幕府で初めて外国人(フランス人)を招聘したことで、職務分掌、雇用規則、残業手当、社内教育、洋式簿記、月給制など、経営学や人事労務管理の基礎が日本に導入された。また日本初のフラシス語学校の横浜仏蘭語伝習所を設立し、この学校から明治政府に貢献した人物を多く輩出した。
小栗の最期は悲劇だったが、明治後間もなく名誉は回復され、日露戦争の日本海海戦で勝利を挙げた東郷平八郎も小栗の子孫と会い、日本近代化の礎と作った偉業に感謝したという。
川路聖謨・水野忠徳・岩瀬忠震・永井尚志そして大久保忠寛。幕末という激動の時代は、本来は表に出なかった小禄の旗本・御家人たちが、能力を武器に官僚として出世して活躍した。危機に瀕して能力で抜擢した幕府組織の中で、幕臣たちは時に徳川家を見て、時に日本の将来を憂い、自らの役割を果たし、命を削っていった。
その代表として、ここでは勝海舟と小栗上野介を取り上げました。

*2002年のNHK新春ドラマ 「またも辞めたか亭主殿」で小栗夫婦を演じた岸谷五朗と稲森いずみ。タイトルだけでは小栗上野介が主人公だとわからんゾ💦
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