
*再放送に合わせて、昨年6月に投稿した記事の再掲です。司馬遼太郎は近隣諸国を配慮して、生前は映像化を許しませんでした。阿部寛と本木雅弘が演じる好古・真之兄弟は見事。香川照之の子規も好演でしたか、色々と残念です。
【あらすじ】
日英同盟を締結させた日本は、大国ロシアと戦う覚悟を固めた。好古は自らが育成した騎兵部隊の統率を任され、真之は連合艦隊参謀として、海上作戦の立案を委ねられる。
開戦早々、海軍は制海権の確保に成功したが、ロシアの旅順艦隊は港内に閉じこもり手を出すことができない。ロシア本国にあるバルチック艦隊が渡航して旅順艦隊と挟み撃ちになると、1セットしかない日本艦隊は勝ち目がなくなる。一方陸軍は敵の火力に苦戦する。だが秋山支隊の奮戦もあり、南満州の遼陽でロシアを打ち破ると、満州中部に駐屯する奉天を目指し、北へと進軍する。
その間もロシアの旅順艦隊は健在で、要塞攻略を任された乃木希典を司令官とする第三軍は、単純な正面突撃を繰り返し、死者を重ねるのみに陥った。このままだと戦況全体が崩れる恐れがあり、陸軍司令部は超法規的措置で第三軍から指揮権を取り上げ、児玉源太郎参謀本部次長が直接指揮を執って203高地を占領。旅順港を見渡して砲撃が可能となり、ロシア旅順艦隊をことごとく撃沈することに成功した。
厳しい冬の間隙を縫い、ロシアは黒溝台で日本軍に攻撃するが、日本軍はかろうじて撃退する。旅順戦を終えた第三軍が合流して始まった奉天の大会戦は、ロシア側の指揮の不味さも相まって、日本軍は奉天占領に成功した。
ロシア軍のこの敗戦はロシア帝政への不満を一挙に噴出させた。日本陸軍がロシアに派遣したスパイ、明石元二郞の活躍もあって、各地でデモや暴動が頻発する。日本政府はこれを好機として講和を試みるも、未だバルチック艦隊を有するロシアは形勢の逆転を信じ、講和を拒絶する。国力が枯渇する危機に瀕していた日本が戦争を終結させるには、連合艦隊が極東に向かう大艦隊を撃滅しなければならなくなった。
バルチック艦隊が濃霧の向こうから日本海に姿を現わした。海軍に課せられた使命は、敵艦隊およそ40隻を全て撃滅して、制海権を完全に確保する、という非常に高いハードル。連合艦隊は日本艦の速力を生かして連続打撃を与え、ロシア側を圧倒する。真之の新戦術は、その精緻さで海戦の常識を一変させるものであり、緒戦で大勢は決した。連合艦隊は真之の頭脳と司令長官東郷平八郎の果断で、世界の海戦史上かつてなかった完全勝利を成し遂げた。
【感想】
元々は軍人志望ではなかった秋山兄弟が、運命の悪戯で陸海軍に入隊し、それぞれが重要な立場で「見上げるほどの大国」ロシアと戦うことになる。
欧米とは全く体格の違う「馬のような馬」で、世界随一とも言える騎兵集団、コサック騎兵と戦う立場になった好古。互角に戦うために研究した成果は、騎兵の練度を上げることではなく、機関砲など、兵器の充実にあった。それでも好古は、与えられた任務を必要以上にやり遂げ、時には騎兵らしからぬ粘りと我慢で陣地を死守し、戦局を好転させるきっかけを作った。
真之は連合艦隊参謀として、作戦立案を実質的に1人で取り仕切った。開戦当初の進撃、旅順港に籠もる艦隊を「閉塞」させる作戦を建策する。そして最終的にはバルチック艦隊を迎え撃って、1艦も逃さず「撃滅」させた日本海海戦の、従来の海戦にはない複雑で巧緻な作戦を立案し、それを実行するように訓練を重ねた。
そして当然だが、2人だけではない数多くの人物たちが、この戦争における重要な場面に関わっている。政治家、軍人、外交官、官僚、財界人、外貨獲得に尽力した金融家、新兵器の開発者、軍制整備をした軍政家、戦術家、徴兵された国民、「敵艦見ゆ」を命がけで報告する民間人、学者、ジャーナリスト、気象予報士、アメリカ大統領の同級生、そしてスパイ。明治維新から40年。好古や真之と同じように、「開花期をむかえた」国家で、それぞれの選択をした若者たちが、それぞれの場所で結果を出していた。
タイトルの「坂の上の雲」は、その由来となった坂の上の天に輝く一朶(いちだ)の雲を目指して一心に歩む時代の昂揚感を、見事に表している。そんな時代に生まれて、そして覚悟を決めて軍隊に居場所を求めた2人の兄弟。近代国家の誕生と同じ年に生まれた秋山真之は、国家の命運を一身に担う立場となる。そのためか日本海海戦の作戦立案で脳漿を使い果たし、戦後はかなり精神的に憔悴して、49歳の若さで亡くなった。
サムライが残る時代に生まれた兄の秋山好古は、「最後の古武士」と言われて大将にまで出世する。しかし退役後は栄達から離れ松山に戻り、本来の道だった教育者として、地元の無名の学校の校長を務めたのが印象的だった。
なお全国でも稀な、陸軍大将の経歴と同時に教員免許を持つ校長は、例え生徒から望まれても、戦争の話は「決して」しなかったという。
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明治維新からおよそ40年。「臥薪嘗胆」で欧米に追いつこうと国力を増強し、薄氷をふむ思いでようやくロシアに勝利した。しかしその後軍部は勝利にあぐらをかき、司馬遼太郎が嫌った精神主義に陥ったまま、およそ40年後の太平洋戦争で破局を迎える。真之が記した「連合艦隊解散の辞」に述べた「勝って兜の緒を締めよ」は、日本軍部には通じなかった。
そして敗戦後は、廃墟の中から国民が「経済大国」を目指して一心に歩んでいくが、更に40年後、バブルの創成と崩壊を招いてしまう。歴史は繰り返してしまった。
間もなく、バブルから40年を迎える。しかし社会は、そしてバブルを経験した私たち世代は、未だに目指すべき一朶の雲を示すことができない。
バブルが崩壊されたとされる1991年の翌年にウィンドウズ3.1が発売されて、コンピューターは一般家庭に広く普及した。その後インターネット広まって社会のあり方が変わり、コンピューターは人間の労働を助け、効率化を推進している。
ところが現在、DX(デジタル技術による社会変革)は想像以上に拡大し、ともすれば人間を凌駕し、人間を支配する勢いを持つに至った。一方人間たちは情報を安易に取得し、安易に取扱うことで言動が先鋭化し、対立の根を深めていく。
間もなくバブル崩壊から40年。このままいくと、日本はそして人間は、また同じ過ちを犯す。

*原作を忠実に再現したドラマですが、数少ない改変の1つが、エンディング手前のこちらのシーン。
口ベタな兄弟が共に時間を過ごすのは、釣りが一番。そこで今後の「悪天候」を予見しています(NHK)
~「再掲」としましたが、色々と手を加えてしまいました。
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