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20 悪寒 伊岡 瞬 (2017) 

【あらすじ】

 東京にある大手製薬会社の会社員、藤井賢一は贈収賄事件の責任を取らされ、山形県の系列会社に飛ばされた。家族を残しての単身赴任。上司からは、ほとぼりが冷めるまでの1年限りで、すぐに本社に呼び戻すと言われていた。系列会社は腰掛けと考えていた賢一は、会社に溶け込めず、成績も上がらず支店長からは嫌みを言われて、浮いた存在になっている。

 そんなある日、妻の倫子(のりこ)から「家でトラブルがありました」とのメールを受ける。その数時間後、妻が傷害致死容疑で逮捕された。そして殺されたのは、賢一に因果を含めた会社の常務。一体家で何があったのか、そして本当の犯人は誰か。

 

【感想】

 サラリーマンの会社と家庭での悲哀を描いた、読む者に「悪寒」を感じさせる物語。

 まず山形編。本人は常務の頼みを受け入れ、会社を救った立役者とも思っているが、受け入れる方は「お客様扱い」は微塵もなく、冷や水を浴びせられた状態。慣れない仕事で成績が上がらない賢一に対し、支店長の「いじめ」は激しく、会社に居場所がない状態になる。その状況は妙にリアルで、サラリーマンなら想像できる、目を背けたくなる描写。好意的な女子社員も、会社のスパイではないかと疑心暗鬼になり、心が安まる暇もない。山形編が終わると、正直ちょっと息抜きできた気分になる。

 元の会社での贈収賄事件で、常務からの頼みで「一筆書かされた上で」実際にはスケープゴートにされた賢一。対して常務の南田竜一はその場限りのご都合主義。その常務が妻に殺されたという事情。しかも常務と妻は同期入社で顔見知りでもある。疑いだしたらきりが無い状況で、賢一は混乱する。

 そんな時、本社の上司である南田信一郎から呼び出される。信一郎は、亡くなった隆一とは腹違いの兄弟で、社内で対立していた関係。信一郎と副社長の園田も対立していて、贈収賄事件のキーマンである賢一を仲間に引き込もうと思惑が働き、創業家一族との勢力争いにまで巻き込まれてしまう。

*本作品に先行して発刊された、人の心を操る恐ろしさを描いた作品。

 

 そして家族の問題。家族を大切にしていると思っていた賢一だが、腹を割っての話し合いは全くしておらす、気が付けば家族の本当の姿が何もわからないことに気が付く。波風を立たせないようにすることが家族への愛情と勘違いしていた賢一。このことに対して大抵の男は、自信を持って賢一を責めることはできないだろう。

 賢一の妻倫子。常務の南田を殺害したとされ、自分で犯行を認める。裁判では認知症の母が、そして娘が自分の犯行と訴えるが、真相は2人には、そして賢一にはわからない。その間、倫子の妹の優子は、妻が不在の中で、妻のこと、家族のことに献身的に尽くして、支援してくれる。

 裁判を通して明らかになる真相、それはまさに「悪寒」。アガサ・クリスティーの傑作の1つと類似した姿を現し、またクリスティーがウェストマコット名義で描いた「女たちの生き方」の1つにも共通する、複雑な人間関係が招いた真相。その隠された真相が明らかになることで、倫子は初めて賢一に心の底を打ち明けることができた。その気持ちを受けた賢一は、職場を変え再び妻と手を取り合うことになる。最後はお互いにしがらみから解放されて、奥田英朗の「最悪」を思い出させる結末。

 本作品で倫子は「庇って」自分の罪を認めたが、これは最後まで納得できなかった。誰かを庇うことで誰かを傷つける。倫子にとって一番大切なのは、自分の娘ではないか。成長しているにしても、「殺人者の娘」という肩書きをその後の人生に背負わせるのは、母親として余りにも身勝手と感じる

 但し、そうしなければならない倫子の「人生」を考えた時、本当に「腹を割って話す」ことの大切さとつくづくと感じる。これができずに拗れてしまう人間関係は、至る処に転がっている。

 

*こちらもまた、心の底を覗くとき、思いもかけない結末が待っている。

 




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