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【あらすじ】
16年前、夫アミアス殺しで終身刑を宣告され、獄中で死亡した母カロリン。裁判では争わず全てを受け入れた母だったが、遺書では自分の無実を訴えていた。その遺書を読んだカーラは、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる。彼女の話に興味を覚えたポアロは、マザーグースの「五匹の子豚」を思わせる5人の関係者との会話を手がかりに過去へと遡る。その5人とは以下。
アミアスの愛人だったエルサは、彼の妻カロリンの存在が邪魔だった。
アミアスの親友のフィリップは、カロリンが昔から嫌いだった。
フィリップの兄のメレディスは、逆にカロリンが昔から好きだったのに相手をしてもらえなかった。
カロリンの年の離れた妹アンジェラは、赤ん坊の頃に姉カロリンが投げたものが当たって傷つけてしまい、カロリンは負い目を感じている。
アンジェラの家庭教師ウィリアムズ先生は、冷静だがどこか得体が知れない雰囲気を出している。
【感想】
題名だけでは、絶対に手を取らない作品。但し特に最近になってから評判は高まり、その看板に偽りなく読み出したら止まらない。全てが完結して「固まっている」と思われる16年前の事件をポアロはどうひっくり返すのか、またはひっくり返せないのか。
容疑者はあらすじに書いた通り5人に絞られている。5人に話を聞くと、皆が同じ風景を見ているはずなのに、その解釈はそれぞれ微妙に異なる。アミアス夫妻に対して好意的な証言、否定的な証言、そして「自分の本当の思いを隠した」と思われる証言。16年がその事実を風化させている人もいるし、心の奥にずっと隠し持っている人もいる。誰が事実を隠しているのか、そして犯人は誰か。
手記を読んだあと、5人を集めて事件を再現するポアロ。ポアロは5人の証言と手記から矛盾点と「錯誤」を見つけ出し、そこから見事に真相を探り当てる。しかもまた1度「フェイク」を入れて。その真相は「犯人も含めて」偽装と誤解が交錯していて、事件の構図を複雑化させていた。16年前、堂々と罪を甘受したカロリン。それを受け入れた周囲の人々。その人間模様の風景が、強烈な勢いで「ひっくり返る」。その反転力はクリスティーの過去の作品と比べても一段と凄まじい。
そしてひっくり返った後、それまで覆われていた霧が晴れた先に、慄然と現われる真犯人の姿は鳥肌が立つ。
その完成度は見事。個人的にはクリスティー作品で3本の指に入る傑作。

さすがにクリスティーもカロリンを絞首刑にせず(テレビ版では絞首刑を受けている)、獄中で病死にした。それとともに、夫婦の真実の姿を最後に見せて、読者に救いを感じさせて物語を終わらせている。
ただそれだけに疑問も1つ残る(本作品の評価を下げるものではないが)。極めてネタバレに近いので、未読の方は大急ぎで読んでから戻ってきてください。
↓ ここから(スマホで見る方を考慮して、敢えて反転にはしていないので注意!)
カロリンは姉の立場として、過去の妹への負い目から全ての罪を被ったが、母親の立場を考えると、最愛の娘をさし置いてまで妹の身代わりになるだろうか。殺人犯となれば、当時のイギリスでは死刑の可能性が高く、実際に死刑判決となった。このままでは両親のない幼い娘が、殺人犯の娘として残されることになるのは明らか。
普通の母親ならば、自分の娘がそんな状況に陥ることに抵抗がないわけがなく、これは娘への手紙1つで解決できる話ではない。はるか昔の妹への負い目と、今後の自分の娘の人生を天秤にかけた場合、どちらを取るか結論は明らかではなかろうか。少なくとも妹に直接確認し、妹が実際に犯人だったら説得すべきと思う。
カーラは「殺人犯の娘」という立場を踏まえた上で立派に育っているが、それは結果論だろう。実際、結婚を機に自分が「殺人犯の娘」ということを気にしてポアロに相談したのが本作品の発端である。但しこれも本作品の完成度から見れば野暮な話か。
なお最近の日本の「イヤミス」にも、本作品と「同じフレーム」と思える人間関係を軸に描かれた物語がある。
もう1つ。若い画家と不倫している愛人が、事件後公爵夫人になるのも・・・・