最近、手書きで何か書きましたか? 毎日、小さな通信機やパソコンで連絡をして、気付くとあんまり筆記用具触っていなかったりしませんか? ちょっとしたメモを手書きしたら「あれ? なんだか字が下手になってるような……」とか! 大げさな、とお思いかもしれませんが、ふと思い返すと、手書きする機会がめっきり減っていました。
その代わり、身近になったのがフォントです。パソコンで書類を作る作業をしていると、文字のデザインを変えるだけで、こんなにも印象が変わるものかと驚きます。紙面でよく使われているフォントや、かわいらしくってお気に入りのフォントなど、種類も少しずつ覚えてきました。
そんなこのごろにぴったりの“手書きの回復”と“フォントの知識を生かす”同人誌をご紹介します。
「ズボラ手書き明朝体講座」 A5 12ページ 表紙・本文モノクロ
著者:ながまき
いきなり、表紙の文字にぐぐっとひきつけられました。
“誰が得するのか極めて謎
普段の書類に妙なアクセント”
“何の気なしに始めていつの間にか上達。
ザ・下らない趣味!”
声に出して言いたくなるようなリズム感のあるキャッチーな文章が表紙に踊っています。かっちりした文字に見えて、少しゆらぎが見て取れるのが、文章と相まって味わい深さを増しています。こちらは、手書きで明朝体を書いて楽しむためのガイド本。「書類に妙なアクセント」とな? 付けてみたくなるではありませんか。
趣味として手書きで文字を書くのは、習字がメジャーでしょうか。文字を均一に書くという方向性ですと、カリグラフィーという、欧文を中心とした華やかなジャンルもありますね。あっ、そういえば美術の宿題でレタリングもしたような……と、いろいろ種類がありますね。
そんな中で、こちらの本では明朝体に注目されています。というか、タイトル通り明朝体しかありません。いかにして明朝体らしい特徴をペン1本で再現するか、そのペンはどんな種類が適しているか、と作者さんが得た手書き明朝体を楽しむコツが余すところなく公開されています。「どうしてもペンで再現できない点もあるので省略している箇所もあります」という部分が「ズボラ」と評してある理由のようですが、その省略こそがしみじみとした良さにつながっています。紹介されているのは、新聞明朝体とレトロ明朝の2種類。比べてみるとはっきり違いが見えて面白いですねー。
本は全12ページ。通称で「薄い本」と呼ばれる同人誌界隈でも、厚くはないページ数ですが、もちろん紙面は全て手書き! そして、1文字ずつ丁寧に書かれた明朝体は、きっちり書かれているものの、やっぱり線の強弱や丸みに違いが出て、よーく見ると1文字たりとも同じ形はありません。この「1文字の個性」の趣き深さよ。丁寧に書くなかでの、かすれやにじみは、海で桜貝を拾ったような「うわ、なんだかいいもの見ちゃった」感で心弾みます。それでいて、原稿用紙に大きく書かれた文字はすっきり見やすいという、その両立が素晴らしい。
そろそろクリスマスカードや年賀状の準備をするころですね。手書きをする機会も増えるかしら。いえ、特別な機会なんてなくたって、日常使いしてみると格好いいのではと提案します! ちょっとしたメモ書きに、はたまたお店で何気なくもらうポイントカードの署名が、こんな明朝体だったら「おっ」と思われそうです。
作者さんは「お金のかからない趣味」として手書き明朝体を楽しんでいらっしゃるそうです。文字を美しく書きとっていくといえば、写経もありますね。まねして書く楽しみは、古来から脈々と受け継がれているのですね。でも筆や硯(すずり)がなくても、1本のペンと紙でどこでも始められるのはお手軽です。しかも、見本は新聞や書類など、身の回りにあふれているのがこれまた便利。個人的には「年末年始のお休みに実家に帰ったけど、時間を持て余しちゃってる」という時など、これをやってみるとお手軽な書き初めみたいで、ものすごく楽しそう! と、のんびりズボラ手書き明朝体に取り組む日々を夢見ております。
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