日差しが少しずつ柔らかくなり、見るものがなんだか穏やかに目に映る季節。涼しくなった風に、ふっと「旅に出ようかな」なんて思ってみたり……秋ですねー。
どこかに行くなら、こんなおいしい旅はいかがでしょうか。今回は鉄道に乗って出会う「鶏」にスポットを当てた同人誌です。
「鶏と鉄道 2」 B5 44ページ 表紙・本文カラー
著者:長沢佳
表紙を開くと、お蕎麦の上に「どどん!」と乗った唐揚げ。唐揚げそばの特集からスタートです。お蕎麦の量も、唐揚げの大きさもさまざまな鶏そばなのですが、おつゆにとっぷり浸かった姿に、「噛んだらじゅわーっとしそう!」と、期待感が否応なく高まります。
最初の紹介は伊東駅の唐揚げそば(520円)。「そばは甘みの効いたつゆで、かけそばのとして食べても独特の風味がクセになる味」「そこに乗る唐揚げはさくさくプリプリ系」とのレポートに、今すぐお箸を手にしたくなります。唐揚げそばには「サクジュワ系、カリフワ系、やわぷり系などさまざまな食感」があるんですって。ひとつひとつにメニューの名前、価格、どこの駅で食べられるのか、またそれは駅の構内か、座れるか、といったデータが添えられているのが細やかでうれしいです。
東北新幹線の駅や、山手線圏内などさまざまな鶏そばが登場しつつ、JR西日本の主要駅で食べられるというとり天うどんや、名古屋のからあげきしめんまでカバー。他にも、東北の鶏駅弁めぐり紀行や、中には、“鉄道会社さんが駅内に作った串焼き店”というレアなお店での焼き鳥レポートなどもあり、紹介された鶏メニューなんとおよそ35種類!
本の中の鶏メニューはどれも作者さんが実際に鉄道に乗ってご自分で食されたものばかり。作者さんはそもそも、鉄道がお好きで鉄道同人誌を作っていらっしゃったところ、「趣味をもっとフリーダムに!」という気持ちから、この鶏を味わう鉄道趣味「鶏鉄」の活動を始められたのだそう。
なるほど、お料理の間に度々登場する列車の写真が、先頭車両から最後尾まできっちり収まっていてかっこいいと思っていましたが、もともと鉄道写真をお撮りになるのがお好きなんですね。だからでしょうか、お料理の写真の奥に、さりげなく写り込むステンレスのテーブルや、こしょうの瓶……そんな風景が切り取られ、「そこに旅した思い出」まで伝えてくるようで、なんとも旅情をそそるんです。窓辺に置かれた色あざやかなそぼろと、車窓の向こうに広がる景色……レールを走る音まで聞こえてきそうです。
鉄道と鶏料理がお好きなんだろうな、というのがにじみ出るこの本ですが、私が驚いたのは「甲州山賊そばめぐり」という、中央本線沿いに点在する駅そば屋「丸政」さんの支店5店舗全てをめぐって山賊そばを食べるという企画。同じ系列で唐揚げとお蕎麦を食すレポートに、「いやいや、いくらなんでも苦痛では?」と心配してしまいますが、作者さんの目線は料理そのものはもちろん、各お店の調度品や駅舎まで観察していて、実に楽しい旅模様が描かれているのです。
「東北鶏飯めぐり」の2泊3日で購入したお弁当は計17個。さすがにお腹いっぱいで食べきれず、翌朝の朝ごはんになったりもしたそう。でも、それでがっかりするかというと、全くそんなことなく、「2種類の唐揚げのクオリティが非常に高く、これ単品だけでもたくさん食べたい」「鶏ハムからは凝縮された旨みが出ていて印象的」と、鶏のおいしいところをしっかりレポートされているんです。体を張って自分の目で見て、舌で味わって……、鉄道と鶏を愛して旅した実感が伝わってくる本です。
サークル名:渚沙野電車区
Webサイト:http://kqnagasawa.wixsite.com/nagisano
取り扱い:メロンブックス https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=169118
とらのあな http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/42/47/040030424793.html
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