ヤマハが東京藝術大学奏楽堂で、「人工知能演奏システム」を用いたコンサートに技術協力を行いました。20世紀のピアノの巨匠、故スヴャトスラフ・リヒテルの往年の演奏を忠実に再現するだけでなく、人間の演奏に合わせて演奏を柔軟に変化させ息のあったアンサンブルとして披露しています。
コンサートの名前は、「音舞の調べ〜超越する時間と空間〜」(主催:東京藝術大学、東京藝術大学COI拠点)。世界的名演奏家集団であるベルリンフィル・シャルーンアンサンブルの演奏に合わせ、AIがピアノを演奏します。演奏を聴いた観客からは大きな拍手が沸き起こり、シャルーンアンサンブルのメンバーからは笑みがこぼれました。
この「人工知能演奏システム」は、「ピアノの巨匠がよみがえり、現代の名演奏家と共演したとすれば、果たしてそれはどんな演奏になるのだろうか」という思いを現実のものにするため開発されました。人間の演奏を理解し、その演奏に合わせて自動演奏を行うことができます。
実は、現在の自動演奏ピアノだけでも、ピアニストのタッチは忠実に再現できます。このAIは人間同士が合奏する上で自然に行う、「演奏者がそれぞれどう弾きたいかという意思の尊重」「聴き合ってタイミングをそろえる」「誰も弾いていないときにお互いを見て弾き始めるタイミングをそろえる」という3つの行為を模倣します。
これらの実現のため、同システムではマイクとカメラを用いて共演者の演奏音や演奏時の動きを検出・分析。取り込んだ情報から、次の瞬間に行うべき演奏を逐次予測し、ピアノへリアルタイムに演奏の指示を出し人間とアンサンブルを奏でます。また、自らのピアノ演奏を表現する映像をリアルタイムに生成してプロジェクターで投影することで、共演者と協調を図る機能も備えています。
最終的には、「一緒に演奏したい」と思った人といつでも、誰でも合奏できるシステムを目指しているとのこと。ヤマハの開発した「ボーカロイド」がボーカルなしでも音楽に歌を吹き込んだように、人工知能演奏システムは演奏家がいなくても音楽に命を吹き込んでくれるようになるかもしれません。
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