「ポスドク」という言葉をご存じでしょうか。辞書を引いてみると、「ポストドクターの略で、博士課程を終了し、常勤研究職になる前の研究者」とありました。大学院で学んだあとも、専門機関などで研究を続ける方々ということですね。
「白衣とか着ていらっしゃいそうでかっこいい!」と外から目線で憧れる一方で、さらに調べてみると、実情としては勤務先の多くが期限付きで、落ち着いた環境で研究を続けることができないかも……と、日本ではいろいろな問題も抱えている状態のようです。そんなポスドクさんたちのお役に立ちたいと発行されているのが、今回紹介する同人誌「月刊ポスドク」です。
「月刊ポスドク2016年8月号(第5号)」 A4 28ページ 表紙カラー 本文モノクロ
今号の特集は非常勤講師。実際にポスドクの立場を経験した方々の手記が、詰め込み過ぎないすっきりとしたレイアウトで並んでいます。その内容は、「求職のチャンスはどこで出会ったか?」という最初の一歩から、教室で教えるための工夫、現場で着る服装まで、淡々とした書き方ながらも実に細やか。
授業内容を身近に感じてもらうために、授業中にその場でスマホを使ってアンケートを取った事や、配布プリントは生徒が書き込むときに字がつぶれないように大きさに配慮するなど、本当にその場で困った事のある人だから出てくる体験談の数々。そのどれもが、「私はこんなことに困りました。次にあなたが困ったら、こんな方法がありますよ」と、まだ見ぬどこかのポスドクさんへのエールになっているのをひしひしと感じます。
テーマ特集以外のページでは、「青瓜の炒め煮の卵とじ」というレシピが紹介されていました。マレーシアで現地調査していたころに作ってもらった料理をヒントにして思いついたレシピで、青瓜をにんにくと鶏がらスープで炒めて卵とじにするそうです。味の決め手はオイスターソース。ほんわかおいしそうですねえ。現地調査していた時のちょっとしたエピソードも添えられ、ほっとする読後感です。よかった……ポスドクさんがおいしいものを食べていて良かった……。
さらに2016年7月にオープンしたばかりの「研究者カフェ」のレポートも。談話スペースと個別の電源があるデスクスペースを備えていて、オーナーさんは「研究を皆で共有する場であってほしい」と願われているとか。他にも自著のPRや、勉強会の告知をする広告コーナーもあったりと、研究する人たちをサポートするぺージが続きます。
編集長さんはポスドクを経験し、今は民間の会社で研究員としてお仕事をされているとのこと。そんな方が拘られたのが「知へのアクセス権」。大学との関わりをやめてしまうと、論文雑誌へのアクセスができなくなるなど、大学にいたからこそ可能だった環境から離れざるを得なくなり、研究が進められなくなってしまう……という困窮が語られています。
実は私は少しだけですが大学図書館で司書をしていたこともあり、そこでは学生、先生、講師と、それぞれの立場によって利用権限が違い、はっとしたことを思い出しました。今、必ずしもどこかの研究室に属していなくても、自分の知りたいことが分かるような環境を公共の図書館でも整えられたらなあ……と、ポスドクさんの体験から、司書としてのヒントをもらったようにも思いました。苦労も、楽しさも、とつとつと紡がれるポスドク語りに、「この想いを共有して、お互いに素敵な環境で研究できるといいよね!」という願いがたっぷりと込められている本です。
サークル名:TwiFULL Press
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