でっきるかな でっきるかな さてさてほほー……この後、つい心の中で(さてほほー)と合いの手を入れてしまった方。「できるかな」を覚えておいでですね?
「できるかな」は、1970〜1990年3月に掛けてNHK教育(今はEテレですね)で放送されていた工作番組です。快活な動きながらも一切しゃべらないノッポさんと不思議な生き物・ゴン太くん、そして姿は見えずともアナウンスで的確にツッコむ天の声の三者によって進行する番組は、15分の放送中に工作のヒントやちょっとした仕掛けにわくわくする気持ちをたっぷりと盛り込んで、放送開始から20年間も愛されました。今回はそんな「できるかな」に関連した貴重な同人誌をお届けします。
「できるかな本舗(復刻版)」 A5 36ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:市丸宗治
今回レビューする同人誌は、「できるかな」の放送終了を機に、「できるかな大好き!」な作者さんが出した一冊。「あれ? 放送終了って、ずいぶん前の話では?」と気付かれた方もいらっしゃるでしょう。実はこの同人誌、初版は1990年。それが長い時を経て、2015年末に再版されたのです!
放送終了時、作者さんは大学生。どれだけ番組が好きだったかというと、同人誌を制作したことがきっかけで、できるかな最終回収録のスタジオ現場に呼ばれるほどというから驚きです。冒頭からカラー写真で最終回のレアショットを掲載し、本文でも「ファンが見た、できるかな最後の日」という、ほかでは決して見ることのできないレポートが掲載されています。
その最終回は意外にも淡々とした雰囲気の中で収録が行われたそうですが、レポートには「感慨深いムードというものがいささか感じられなかったけれど たぶんスタッフの人々はそれを表に出さなかっただけなのだろう。そう思わずにはいられない感じを受けた」とつづられており、制作者の方々の気持ちを思いやる筆致に、作者さんの深いできるかな愛を感じます。愛が強すぎるあまり「(新番組の)メガネ氏の印象は薄い」(ワクワクさんのことだ!)と書かれていたり(ワクワクさんとゴロリの「つくってあそぼ」は1990年から2013年まで放送されました)。
ほかにも、ゴン太くんの保管問題や、ノッポさんファッションの変遷、そしてゴン太くんの中身がどうなっているのかを伝えるイラストや写真まであって、その裏側の公開っぷりは、「きゃー、見ちゃった! こうなってたのね!」と秘密の花園をのぞき込んでしまったかのような背徳感を覚えます。
そして後半ページの出演者や制作スタッフさんからのメッセージに至っては、その貴重すぎる資料におののかんばかり。ノッポさんが、「できるかな」を離れて思うことについて直筆で語られていたり、おしゃべりを担当された、つかせのりこさんのことを振り返っていらしたり……。こんなの、ここでしか読めません! 愛あるファンが、力を尽くして同人誌を作り、貴重な声をページに留めることができた、なんという幸せな紙面なのでしょうか。
この本を読んでいて、「できるかな」はチームで作られていたんだ……。と、はっとしました。「できるかな」のイメージはやっぱりノッポさん。そして“ぶのぶの”という独特の鳴き声も愛らしいゴン太くんと、元気な天の声。けれど、その裏には工作を準備する人がおり、撮影の度にゴン太くんを運搬する方もおりと、画面には映らない多様な役割が番組を支えていたのだと気付きます。と同時に、スタッフさんの多くが固定され、ずっと長く番組に関わり続けていらしたことも、同書を読んで分かったことでした。
実は、この同人誌を再版しようと決意されたのは、ゴン太くんの中の人こと、人形劇俳優の井村淳さんが亡くなられたことがきっかけだったそうです。2015年6月の井村さんを送る会の際、かつて大学生だったころに作ったできるかな同人誌を飾ってもよいかという連絡を受けたことで、「できるかなのあのころを語る資料は実はとても少ない」ということに気付き、再販を決意なさったのだそうです。なんという巡り合わせでしょうか。
あのころの思い出は、思い出のままだってもちろん輝いています! でも、そのきらめきの奥をのぞきこんだら、たくさんの人たちが番組を愛していたこと、大切に大切に番組が育まれていたことが見えてきました。私たちのすてきな思い出は、作り手の人たちの精魂を込めた気持ちで守られていました。それを知ることができたことが、とってもうれしいです。
サークル名:できるかな本舗
Twitter:@1o3
参加予定イベント:夏コミ
入手場所:maruwoo☆hotmail.com(メールにて、☆を@に)
Webサイト:http://id25.fm-p.jp/105/maruwoo/
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