今年も早いもので4月も半ばになりました。いつの間にか桜の花が散り、葉桜になりつつあります。花見を楽しんだ人も、この機会を逃した人も、名残惜しいことでしょう。
ところで皆さん、知っていましたか? 1年中花開く桜があることを! その名も「仁科乙女(にしなおとめ)」。
理化学研究所によると、「仁科乙女」とは「『山形13系敬翁(けいおう)桜』に重イオンビームを照射して突然変異を誘発させて作り出したもの」……えっ? 重イオンビーム? 作り出した? 実は、「仁科乙女」は、理化学研究所とJFC石井農場による共同開発によって品種改良された桜なのだそうです。
一般的な桜は、夏につくられた花芽が秋に一度休眠します。そこから再び花を咲かせるためには、冬の寒さによって休眠を打破する必要があります。ところがこの「仁科乙女」は休眠打破に冬の低温を必要としません。つまり低温にさらされなくても花を咲かせることができるのです。野外栽培では4月〜7月、9月〜11月の二季咲きですが、温室栽培にすると個体ごとにさまざまな時期に開花し、連続して花を咲かせることができるようなのです。これぞ「四季咲き」。
桜というと4月に上旬に咲くソメイヨシノが一般的なために、“桜=ソメイヨシノ”と思いがちですが、実は桜の種類は300以上もあるんだそうです! 花の色もピンクだけではありません。「白妙(しろたえ)」は純白の花びら。黄緑色のラインの入った小ぶりな花を咲かせる「御衣黄(ギョイコウ)」、沖縄で寒い時期から花を咲かせる「寒緋桜(カンヒザクラ)」は濃紅色とさまざまです。
理化学研究所の素晴らしい研究成果によって、年中桜を見られて、いつでも花見ができて、お酒が飲める! しかしなぜ、四季咲きの桜を開発する必要があったのでしょうか? その理由を知ると、単純に喜んでいられない事実が潜んでいました。
九州地方や山形県では、1990年代から桜の花の数が減少しているとのこと。これには近年の地球温暖化が関係しており、昔に比べると徐々に日本の四季の変化が小さくなっていることが原因のようです。つまり、このままでは冬の寒さが弱まって、桜が咲かなくなる時代がやってくる可能性があるのです。そこで作り出された「仁科乙女」は、四季の変化が乏しくなっても花の数が変わらないように改良されているのです。
四季それぞれの気候によって日本の文化や自然は育まれてきました。研究者の努力によって、季節にかかわらず桜が咲くのはすごいことですが、一方で、地球温暖化などによって季節の変化がなくなってしまうことは問題です。「仁科乙女」によって年中花見ができるのはうれしいですが、四季の移り変わりがなくならないような努力も必要ですね。
(伊佐治龍/LOCOMO&COMO)
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