映画「千と千尋の神隠し」に登場する巨大な湯屋「油屋」を、約3メートルもの模型でどーんと再現。千尋は実際にどれだけ圧倒されたのだろうと迫力におののきつつ、細部を見る。屋根の下には梁(はり)が1本1本見えるなど、幻想的な湯屋は現実でもしっかり建つようデザインされていたことが分かってくる。
スタジオジブリ作品の立体建造物に焦点を当てた展覧会「ジブリの立体建造物展」(7月10日〜12月14日)が、江戸東京たてもの園(東京都小金井市)で始まった。キャッチコピーは「部分を見れば 全体が見える」――建物の細部を見つめることでジブリ作品がますます好きになる、展示の様子を紹介しよう。
会場では、「風の谷のナウシカ」から最新作「思い出のマーニー」まで、スタジオジブリ作品に登場する建造物の背景画や美術ボードといった制作資料が展示されている。解説は、宮崎駿・高畑勲両監督とも交流のある建築史家・藤森照信さんが務めた。
例えば「耳をすませば」では、月島家が住む公団住宅について「戦後の台所と女性の関係」という切り口で解説がある。「ハウルの動く城」では、動く城からいろんな町へつながったドアが内開きであることについて、ヨーロッパの基本的な様式を忠実に再現しているとも。展示物と藤森さんの解説とを交互に確認していくと、作品の世界観への理解が深まって楽しい。
作品によっては建造物を再現した立体模型も飾ってある。「アルプスの少女ハイジ」ではハイジの山小屋から麓の町まで続く巨大なジオラマが。「崖の上のポニョ」では宗介の家の模型が360度観察できるようになっている。宗介が海へ遊びに下る裏道、ポニョと船旅を始めるベランダ。作中の箇所を見つけるたびにキャラたちの言動が浮かんでくる。
もっとも大きな模型が、本展のために製作された「油屋」のそれだ。本来カットでは見えない側面や後面まで全体が再現された。
本展を企画するにあたって、スタッフのテーマは「宮崎駿の嘘を暴こう」だったとスタジオジブリ・青木貴之さん。さすがに現実ではありえないものをアニメで描いているはずだと踏んで湯屋の模型の製作も進めた。ところが橋の下には鉄骨がしっかり組まれ、窓もちゃんとハマるよう枠がデザインされと、むしろ建築的に正確性があることが分かって「返り討ちにあった」と苦笑する。
「こうした建物のディテールのリアリティが、ジブリ作品に現実から“かけ離れていないファンタジー”を生んでいるのではないか」(青木さん)
藤森さんは「ハウルの動く城も実際に作ることができるかもしれない」と、建築史の観点から建物の正確さに舌を巻く。「ディティール同士の関係は変。でも個々は合っている。正確なディティールをいろいろ集めて不思議なものを作っている」
建造物の細部の忠実性を知れば知るほど、ジブリ作品のファンタジーに感じられる「親近感」や「懐かしさ」の理由が具体的に見えてくるかもしれない。
展示は12月14日まで、入園料は一般400円。ミュージアムショップでは展覧会にちなんで「千と千尋の神隠し」の手ぬぐい(税込1296円)、Tシャツ(税込4104円)といった新商品も販売中だ。もともと園内の東ゾーンにある建物「子宝湯」は「千と千尋の神隠し」のヒントにもなった銭湯なので、まとめて鑑賞してジブリ×建物づくしの1日といきたい。
<展示情報>
「ジブリの立体建造物展」
会期:7月10日〜12月14日
会場:江戸東京たてもの園(東京都小金井市桜町3-7-1)
開場時間:7月〜9月が午前9時30分〜午後5時30分、10月〜12月が午前9時30分〜午後4時30分(※入園は閉園30分前まで)、休園日は毎週月曜日
入園料:一般400円
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