その後、この「マフィアとルアー」の続編的短編集として、「」(星海社文庫)が出版。こちらは結婚や出産、家族との軋轢など、前作から10年の時を経て、例によって作者の精神性が如実に反映された30代の男を主役とした半自伝的短編が収録されています。実年齢において10年、精神年齢において20年遅れている社主が、この作品群に込めたTAGRO先生のメッセージを理解できるのは40代になってからでしょうか。
ちなみに社主がTAGRO先生の存在を知るきっかけになった「四畳半スペースオペラ」こと「」(講談社)も超おすすめです。「月刊Gファンタジー」(スクウェア・エニックス)で連載されていた当時、発行部数があまりに少ないまま絶版したことから、後に入手困難に陥り、一時期ネットオークションで1冊6000円の値がついたこともありましたが、手持ちの単行本を出品しようかという誘惑にも駆られましたが「変ゼミ」が人気を得たおかげで、現在講談社から追加エピソードを収録した新装版が全4巻で再刊されています。本連載が続くようなら、機会を改めてこの「サルガッ荘」も取り上げたいところです。
最後に紹介するのは青山景先生の「ストロボライト」(太田出版)です。この名前を聞いてピンとくる人もいるかもしれません。作者の青山先生は2011年10月9日、32歳の若さでこの世を去りました。自殺によるものでした。
2009年発売の「ストロボライト」は、小説家志望の大学生・浜崎正が聖典のようにあがめるカルト映画のヒロイン・桐嶋すみれにそっくりの大学生・町田ミカとの交際を「書く」ことによって構築していく作品。社主はその表紙のインパクトに惹かれて買ったのですが、美大卒という経歴に裏打ちされた画力の高さと、現在と過去、現実と空想、主観と客観が交錯する世界で紡がれていく重層的な物語構造が融合した、まさしく傑作と言って差し支えない作品でした。
その後2010年には小学校を舞台に、学級の中に宗教が芽生えていく過程を描いた「よいこの黙示録」(全2巻・未完)の連載を開始。まさにこれからというタイミングで報じられた自殺の知らせに、社主はその後1週間ほど魂が抜けたかのようになりました。亡くなる3日前、自らのツイッターに遺したメッセージ(現在削除済み)は、ほぼ同世代の人間として、とても切実なものと感じられました。
世に問うた作品が高い評価を受け、その将来が期待されていたマンガ家がなぜ死を選んだのか――。おそらく悩みに悩んだ末に導き出したのであろう彼の言葉は、亡くなった当時の年齢を追い越してしまった今も心に引っかかったまま、なおその答えを見つけ出せずにいます。
さて、前回とは打って変わって、今回はいつになくシリアスに紹介してみました。ここまで読んで「どれも重いな……」という印象をもった人も多いかもしれません。しかし、すでに30代に足を踏み入れた者として、老婆心ながらに一言助言させてもらうと、こういう重い作品を自らの血肉として吸収できるのは若いうちに限ります。人間、歳を取るに従い、「私」という自我は良くも悪くも硬直していく一方です。だからできるだけ早く、できれば25歳までにこういった作品に触れてほしいと思うのです。
今回はちょっとまじめに書きすぎたので、次回はうんこをモグモグ食べるようなマンガを紹介しようかな、などと思いつつ、今回はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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