人間にとって最も身近な幸福である食事。僕は漫画や映画でも何気ない食事シーンが出てくると妙に嬉しくなってしまうのだけど、最近一押しなのが「めしばな刑事タチバナ」というB級グルメ漫画だ。
40歳を過ぎたさえない独身刑事・タチバナが、牛丼や立ち食いそばといった身近すぎる食事に対するこだわりを、時に優しく、時に熱く語りまくるという漫画。見方によっては涙が出るほどみみっちいこだわりなのだけど、ただ生きるために空腹を満たすのではなく、日々の大切な幸福として真摯に大衆食に向き合うタチバナの姿勢が僕はとても気に入っている。4月10日からはテレビ東京系列で実写ドラマ版もスタートする(紹介記事)。
そんな「めしばな刑事タチバナ」の記念すべき第1話のテーマとなったのが、立ち食いそばチェーン「名代 富士そば」のオリジナルメニュー「カレーカツ丼」だ。「カツカレー」ではなく、「カレーカツ丼」というところに、ありそうでなかった、味が想像できるようでできない不思議な魅力がある。本庁のエリート刑事だったタチバナも、張り込み中にこのメニューに出会って食べるのを我慢できず、結果的に犯人を取り逃がして左遷されてしまったというこのメニュー。僕もその誘惑に負け、気がつくと富士そばに足を運んでいた。
向かったのは秋葉原駅昭和通り口のすぐ近くにある「富士そば 秋葉原店」。カレーカツ丼530円の食券を買って店内に入ると、愛想のいいおばちゃんがすぐに調理に入ってくれた。店内のBGMは演歌。この「グルメ」ではなく、「めしを食う」って感じがいいのだ。
数分で念願の「カレーカツ丼」がお目見え。なるほど、カレー皿にご飯と卵とじのカツを盛り付け、その上から円を描くようにカレーをかけて作るらしい。もっとカツカレーっぽい印象なのかと思いきや、たっぷりの卵が「俺はカツ丼としての魂を捨てたわけじゃないぜ」と主張している。
タチバナ刑事を見習って、大胆に「カツ丼とカレーのミクスチャー部分」から食べてみる。……ん? あっ、なにこれ、嬉しい!
正直なことを言うと、僕は富士そばの「カツ丼」も「カレーライス」もいかにもチープな味って感じでそんなに好きじゃない。だから「カレーカツ丼」も期待はずれで終わる覚悟だった。ところが2つが合わさると、甘口でパンチに欠けるカレーを出汁の効いたカツ煮が補い、作り置きでどうしてもパサパサした印象のあるカツにカレーが潤いと奥行きを与えている。異なる2者を違和感なく繋げてくれているのは、「カツカレー」との最大の違いである卵とタマネギの柔らかな甘みだ。
タチバナ刑事はこの食べ物を「1+1は3じゃない! 2でいいんだよ!」と評したけど、まさにそんな感じ。激変させるのではなく、「それなり」同士が助け合って「美味しい」を生み出していることにじんわりとした嬉しさを感じる。ともすれば日々の中に埋もれがちな、「めしを食う」ということの小さな幸せが確かにあった。
この「カレーカツ丼」、元々はとある店舗の店長さんがまかないのメニューとして考案したものだそう。これがスタッフの間で美味しいと好評だったことから店舗限定メニューとしてお客さんにも提供を開始した。こういうことは富士そばではよくあるそうで、今回行った秋葉原店でも「肉玉丼(豚肉)」という店舗限定メニューが存在していた。
「カレーカツ丼」は一部ネット上などで話題になり、数年前にはほとんどの店舗で食べられる新メニューに昇格。その後はレギュラーメニューから外してしまった店舗もあるが、食券機になくても店員さんに頼めば作ってくれるところもあるそうだ。その場合は「カツ丼」の食券を買い、カレー代としてプラス80円を支払う形式。マニュアルとして徹底されているものではないので、頼みたい場合は事前に確認しよう。
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