まっつんさん(23歳)は、知る人ぞ知るラテアートの達人だ。カプチーノの表面に、動物や萌えキャラなどさまざまな模様を描き、2ちゃんねるで「我流ラテアート」として公開すると、たちまち人気となった。彼がコーヒー1杯にかける思いやラテアートを始めた経緯を聞いてみた。
調理師学校を卒業後、大阪のイタリアンレストランに就職したまっつんさん。キッチンで働くはずが、まずはホールで接客などの修行を積むことになり、ホール仕事の一環で、食後の飲み物として出すカプチーノのラテアートを担当することになった。
ラテアートとは、カップにエスプレッソとスチームミルクを注ぎ、エスプレッソの茶色とミルクの白の2色で表面に模様を描くこと。ミルクをピッチャーで注ぎながらデザインを作り上げる様式はフリーポアラテアートと呼ばれており、まっつんさんはこれがどうしても上手にできなかった。そこで、爪楊枝のような器具を使って模様を描く別の方法でラテアートに挑戦。見よう見まねで練習を重ねた。
あるとき偶然、カプチーノの表面にミルクの白くて丸い模様が浮かんだ。エスプレッソを絵の具のように使って、丸に目や鼻を描き込んでみると……磯野カツオのラテアートが見事完成! 客が大ウケして喜んでくれたという。これがきっかけとなり、店で客からのリクエストに応えて、さまざまなラテアートを描くようになったまっつんさんは、めきめきと腕を上げていった。
よく描いていたのは、ネコやクマといった可愛らしい模様。ほかにもスヌーピーやキティ、トトロ、「ドラゴンボール」の亀仙人、「ちびまる子ちゃん」の永沢君……など、ジャンルを問わずにさまざまなキャラをものにしてきた。ときには「俺の女房を美人に描いてくれ!」と頼まれ困ったことも。店の食べログページには、ラテアートに関するコメントが寄せられ、評判になったという。
昨秋、描きためた作品を2ちゃんねるに投稿することを思いつく。匿名性の高い2ちゃんねるなら「本音を言ってもらえる」と思ったからだ。夜中の0時すぎにスレッドを立て、たんたんと写真をアップしていく。「こんなのラテアートじゃない」と叩かれるかもしれないと予想していたが、予想以上に好意的な意見が多かった。さらにこの内容がまとめブログに転載され、Twitterなどでも拡散。「次も待っている」「実際に飲んでみたい」といったコメントを見てうれしくなった。
次を期待するネットユーザーの声に応えたい――まっつんさんは、いつでもリクエストに応じてラテアートを作れるよう、自宅にエスプレッソマシーンを導入。携帯電話しか持っていなかったため、併せてPCも購入した。以降は定期的に2ちゃんねるやTwitterで撮りためた作品を公開したり、リクエストに応えて作ったりしており、気づけば12時間以上2ちゃんねらーたちとやり取りしていたことも。「あの時はすごく疲れました(笑)」とまっつんさんは楽しげに話す。
自分自身について「絵心がある方ではない」と分析する。趣味で絵を描いているというわけでもない。「ラテアートにしたらすごく見えるだけで、誰でもできる描き方でやっていますよ」と謙そんする。ラテアートが完成するまでにかかる時間は、得意なデザインなら2〜3分ほど。カプチーノは冷めるとミルクの泡がはじけたり、絵がにじんだりするため、ラテアートは時間との戦いだ。紙とは全く違うものに描く楽しさや難しさをまっつんさんは追求している。
現在は転職して、とあるバーで働いており、そこでも時々ラテアートの腕前を披露している。今年4月にはフリーマーケット会場の片隅に露店を出し、カプチーノをふるまった。自身のTwitterアカウントなどで告知していたため、100人近く客が集まり、行列もできたという。6月3日には2回目の“青空ラテアート”を予定している。夢は独立して自分のカフェを持つこと。「ラテアートはたった一杯でも人を笑顔にできる。これからもたくさんの人を笑顔にしたい」と語ってくれた。
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