実際、会場には一般客用の250席が埋まるほど人が詰めかけていた。公演前に藤山さんが「許可の無い写真撮影、スマフォやタブレットなどでの動画視聴はどんどんやってください。Twitterでつぶやく際のハッシュタグは〜」と案内すると、笑ったりスマートフォンを取り出したりする人が半分ほどいた。公演の合間には、プロジェクターでニコ生の画面を映しながらトークしたり、ニコ生のアンケート機能を使ってネットの視聴者と掛け合いしたりする時間もあった。
ニコ生の来場者数は3758人、コメント数は8367件に上り、大いに盛り上がった。藤山さんはニコ生について、コメントで盛り上がりを可視化できるのが魅力だと、熱く語る。公演を会場で見ると楽しいのは「みんなで一緒に見て、一緒に拍手をして盛り上がるから」。同じような環境をニコ生でなら再現できると感じている。
4色の砂を水を入れた器に全て入れて、別々に取り出す手品「四色砂」
複数の金属の輪っかで知恵の輪のような演技をする「金輪切」
ニコ動でも有名な「ダブルラリアット 回ってみた」こと「金輪舞」!
藤山さんいわく、手妻は今「人気も認知度もない」状態だ。手妻を盛り上げるためには、動画配信などの手段で手妻を見たことのない人との接点を広げることが重要だと考えている。だが、動画配信は本来「マジシャン泣かせ」なもの。繰り返し視聴したり、コマ送りしたりできるため、見れば見るほど手品への驚きが減る上、タネがばれる可能性もある。それでもニコ厨な藤山さんは、手品師として動画配信にどう向きあうか考え続けてきた。
解決のヒントとなったのは、「新世紀エヴァンゲリオン」や「攻殻機動隊」など、藤山さんが何度見ても飽きないというアニメたち。ストーリーにたくさん盛り込まれた伏線が「繰り返し見るほどに魅力を発見できる」という面白さを引き出していると気づいた。そして手妻にも同じように伏線の要素「見立て」があることを思い出したとき、この特徴を生かせば手妻も「時代に適応できる」と確信したという。
見立てとは、手妻を繰り返し見ると発見できる細かな仕掛けのことをいう。例えば「蝶のたはむれ」という演目は、扇子で紙切れを落ちないように飛ばしているだけに見えるが、紙切れを花に乗せることで蝶をイメージさせている。2枚になった紙切れが、雄と雌の蝶だとすると、2枚の扇子で重ね合わされた型は「蝶の結婚」にも見える。そして、演目の最後にまかれる紙吹雪は2匹の蝶の子供たちを示す、といった具合に描写が奥深いのだ。
藤山さんは、手妻を繰り返し見ていくうちに「何かの見立てに気づくことが面白く、その見立てに気づくことで別の見立ての型が見えてくる。その気づきこそが魅力」と語る。記者もそう言われると「そういえば」と演目を思い出し、もう1度見てみたくなった。もちろん、型や所作の美しさも「何度見ても飽きない手妻の魅力」の1つだ。
ネットでの動画配信は「テレビで自分の特番を組まれるのと同じくらいの価値がある」と話す。今後もにぎわい座でライブ配信できるよう働きかけるつもりだ。ほかの手品師に対しては「(ネタがばれるのを)怖がらずにどんどんやるべき」とエールを送る。これからは「ネットに対応した芸を育てる」という目標も掲げている。
“よきニコ厨”として、伝統芸能・手妻の継承者として、手妻を「現代に生かすため」にニコ動を利用し奔走する藤山さん。インタビューの最後にニコ動の視聴者や、ねとらぼ読者にメッセージをお願いしますと言うと、「皆さんもっと僕で遊んでください」とお決まりのドヤ顔で、芸人らしくオチをつけてくれた。
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