この記事に引用されている朝日新聞の「悩みのるつぼ」コーナー。相談者は50代男性で、世界の理不尽を新聞報道で見聞きすると憎悪で夜も眠れない、この先、気持ちを保っていく方法にアドバイスを、というのが相談内容。
これに対する野沢直子の回答が、「そんなに心配なさっているのなら実際に戦場に出向いて最前線で戦ってくればいい」「そんなことを嘆く前に、今自分が幸せなことに感謝して自分の周りにいる人たちを大切にしましょう」であり、この回答が人をバカにしているというのが文春の記事。
これら二つの記事についたブコメも圧倒的に、野沢の回答はけしからんというものが多いみたい。
文春で引用されている朝日の記事は有料なので本来は全部読めないんだけれど、金を払うと時間制限付きで記事をオープンにできるサービスがあって、篤志の方のおかげで私は全部読むことができた。感謝。
野沢の回答の趣旨は「ニュースの裏側には必ず報道されない人々の声があり、報道とは異なる意見があるはずだから、そのことを想像するのが大事。現地で起きている悲劇に本当にコミットしたいなら、実際に現地に行って何が起きているのか確かめて来い(私による要約)」というものだった。私もこの意見に大いに賛成なんだけれど、多くの人はそうは思わないらしい。
ロシアの軍事侵攻もガザの紛争も米大統領選も、何であんなことが起きるのかさっぱり私にはわからない。プーチンやネタニヤフやシオニストやトランプや、そういうものは悪であり糾弾するべし。彼らを攻撃するのが正義。彼らを排除できれば世界は平和になる。本当にみんなそう思ってるの?50代相談者は彼らを憎悪してるらしいけど、本当に悪いのは彼らだけなのかしら?
例えば、ガザに対するイスラエルの攻撃は悪なの?確かにガザに住むパレスチナ人民間人がイスラエルの攻撃で死傷するのはあってはならないことであり、この意味でイスラエルは邪悪だ。でも、2023年10月7日のテロリズムで民間人を攻撃し虐殺し、いまだに人質として解放しないハマスもまた邪悪である。民間人を人質に取るというのはそれ自体が犯罪行為であり、いかなる理由があっても許されるものではない。それなのに人質解放を停戦の取引に使うハマスに対抗してイスラエルがハマス殲滅のための攻撃を止めないことについて、どちらが悪でどちらが善なのか。あるいはどちらがより邪悪なのか。そんなことはもう私にはわからない。今ガザで起きていることは、本当に私の理解を超えていて、何をどう考えるべきなのか、さっぱりわからない。
家族が人質となっているイスラエル人がイスラエル政府にガザを制圧して人質を解放して欲しいと願うのは、おかしなことではないと思う。ガザに住むパレスチナ人たちがイスラエルによるガザ攻撃を止めて欲しいと思うのも当然だ。一方で、人質解放のために攻撃停止を主張するイスラエル人の人質家族もいるし、惨状を呈するガザ(そこは、今までだって決して平穏の地ではなかった)になお住み続けようとするパレスチナ人もいる。国境を接するエジプトをはじめ、アラブ諸国がパレスチナ人難民を受け入れようとする動きはないし、イスラエルは西側諸国から軍事行動についてさまざまな批判を受けても屈しない。これを、イスラエルを悪とする見方で一括りにする単純さに、私はついていかれない。
Twitterではガザにまつわる話が流れてくる。エジプトとの国境にあるラファ検問所を運営しているのはエジプトの有力企業に連なる会社で、通行料として大人一人当たり5000ドルを徴収する。そもそも、外国籍を持っているとか病院に行く必要があるとかの決められた理由がない人はここを通れないのだけれど、金を払えば誰でもエジプトへ出国できるらしい。この通行料がどこへ流れるのかもわからないが、エジプトがこういう商売を黙認しているのも理解できない。UNRWAを通じて搬入される支援物資はガザの市場で売られている。本来はタダで配られるはずの支援物資が市場に出ていて、ガザ住民は金を払ってこれを買う。支援物資を運ぶトラックが住民に略奪される動画もよく見るのだが、住民は略奪しなければ支援物資をタダで手に入れることができないのかもしれない。略奪するために住民はトラックの運転席めがけて投石する。これでトラックの運転手が死傷することもあるらしく、検問所の先にトラックが進まない理由のひとつがこの略奪行為なのかもしれない。支援物資を売る市場を通じて集められた現金を元手にガザ住民はラファ検問所を通過する。これは、UNRWAに世界中から集まった支援金(日本も払っている)がガザを通過してエジプトへと流れていることでもある。こういう金の流れは、例えば日本政府のODA活動と似ていると思うし、一概に悪いことだとも思わないけれど、ガザの場合はガザ住民の命をカタにした商売とも言えるわけで、やっぱりいかがなものかと思う。Twitterの話なんてどれが本当でどれがウソなのか確かめようもないし、動画だって信用ならない。けれども、検問所で金を取る話は大手メディアでも見るし、上で書いたような話もありうることだとは思う。日本でのほほんと平和に暮らしていると、こういう世界のことはよくわからない。なぜこんなことになっているんだろうか。一体誰が悪いのか。
仮にイスラエルがガザ攻撃を中止したら、女子供が病院に担ぎ込まれる映像もなくなり、報道を見ても心揺さぶられることはなくなるかもしれない。けれども、帰ってこなかった人質の家族の思いがそれで癒されるわけではないし、家と仕事がなくなったパレスチナ人の生活が再建してパレスチナ国家が自立できるわけでもない。パレスチナとイスラエルの両国の共存は、これからも長い時間をかけて紆余曲折を経ながら、その間も何人もの血を流しながら、模索していくより他はない。
私は、50代相談者の「世界の理不尽」と言うところの単純さにむしろ辟易する。彼が思うように世界が変わったところで、理不尽が解消するわけもないのに、一体何をそんなに真剣に悩んでいるんだろうと思う。むしろ、報道が喚起する情動を存分に味わって快楽としているようにしか見えない。報道が全てを報じないのは野沢の言う通りだと思うし、彼らは商売のために扇情的なニュースを流しているだけだ。そんなものに引っかかって意味のない悩みで人生を無駄にするくらいなら、もう新聞を読むのはやめにして身近な人々との関係を見直すほうがよほど利益があると私も思うよ。