beatmania IIDX 19 Lincle 初出の楽曲 A MINSTREL ~ ver. short-scape ~ の歌詞の冒頭部分には,以下のようなテクストが含まれているらしいです。(実物の歌詞カードを持っていないので Remywiki から引っ張ってきているだけ)
Fabêloj ne plu konâtaj,
rêvoj el bêla ôlda memôr'
revênas, lâ ˇute kantâtaj,
nun por farí ˆgi fírma espér' por vi.
これについて言及している人がネットを探しても全然見つからないので,この記事で触れておきます。
これは何なのか
歌詞のこの部分は有名人工言語エスペラントで書かれています。ジャンル名の LA FABELO もエスペラントで "寓話" を意味します(la は定冠詞)。
ただし,ダイアクリティカルマークが崩壊しており,語アクセントがサーカムフレックスで表されています。一般的なエスペラントの表記になるよう修正すると,以下のようになります。
Fabeloj ne plu konataj
Revoj el bela olda memor'
Revenas, laŭte kantataj
Nun por fariĝi firma esper' por vi.
エスペラントはややエアプですが,日本語に逐語訳するなら大体こうだと思います。(kantataj が謎なので,kantate と解釈しています)
もう知られていない寓話
古くて美しい思い出の白昼夢
大声で歌われながら帰ってくる
いまあなたたちの確かな希望となるために
もし「いい感じ」に書くとすればこんな感じでしょうか。
もはや忘れ去られた寓話と
古く美しき思い出の白昼夢が
響き渡る歌声とともに蘇り
今きみたちの固き希望となる
ここから先では,エスペラントを知らない読者の方に向けて簡単に文法を説明します。
文法説明
まず一旦元の節を全部載せます。
Fabeloj ne plu konataj
Revoj el bela olda memor'
Revenas, laŭte kantataj
Nun por fariĝi firma esper' por vi.
※筆者は先に述べた通りエスペラントはかなりエアプなので,(一応辞書を引いたりして確認は取っていますが)かなり適当なことを言っている可能性があります。十分留意してお読みください。
1 行目
Fabeloj ne plu konataj
エスペラントには,いくつかの基礎的な副詞・前置詞・代名詞・数詞などを除き,語尾が語の品詞を表すシステムがあります。-o は名詞,-a は形容詞です。例えば fabelo は名詞 "寓話" です。
形容詞は名詞の前からかかるのが普通ですが,今回のようにうしろに置いても問題ありません。
-j は複数語尾です。形容詞がかかる先が複数形の名詞であればその形容詞にも語尾 -j が付きます。例えば ĉarmaj katetoj "かわいい猫ちゃんたち" のようになります。
ne plu は "もはや〜ない" (フランス語 ne plus) です。
konata は koni "知る" の現在受動形動詞です。koni の -i は動詞原形語尾で,これを除去して a, t, a を付加することで konata になります。a, t, a はそれぞれ順番に現在・受動・形容詞を表しています。ここでは詳しくは述べませんが,文字を入れ替えることで例えば koninte(過去能動副詞)みたいなのを構成することもできます。i, nt, e がそれぞれ過去・能動・副詞を表します。
2 行目
Revoj el bela olda memor'
先ほど述べた通り -o は名詞で -a は形容詞なのですが,リズムを整えるために名詞語尾の -o は省略することができ,このとき書記言語ではアポストロフィを補います。
revo は "白昼夢"(フランス語 rêve),bela は"美しい",olda は "古い",memoro は "記憶・思い出" です。el は前置詞で "〜から(の)" です。
3行目
Revenas, laŭte kantataj
re- は "再び" を表す接頭辞,veni は "来る" で,組み合わせて reveni "戻る・帰ってくる" です。 -as は現在形語尾で,主語はおそらく前の行の白昼夢と寓話です。
形容詞の語尾 -a を -e にすることで副詞に転用できます。ここでは,形容詞 laŭta "(声が)大きい" の語尾 -a が -e に変わって laŭte "大きな声で" になっています。
kantataj は "歌われている" < kanti "歌う" の現在受動形動詞 + 複数語尾 -j だと思いますが正直よくわかりません。可能性としては ①kantataj は寓話と白昼夢にかかっている,または ②kantataj で revenas の主語として "歌われているもの" を表したかった,のどちらかだと思われます。前者だと動詞を挟んでまでここに置くのはやや変な感じがして,後者なら正しくは kantatoj になるはずです。1
行目とセットになって脚韻を構成しているので,この語尾自体は意図的なはずですが……(?)
文の流れ的には副詞化して kantate にして revenas にかけるのが自然だと思うので,訳文はその解釈で書いています。
4 行目
Nun por fariĝi firma esper' por vi.
nun は "今",por は前置詞 "〜のために" です。ni, vi は人称代名詞 "私たち" と "あなたたち" です*1。
firma は "しっかりとした",espero は "希望" です。ちなみに esperi "希望する" を現在能動形動詞にして名詞化すると esperanto "希望する者" になり,これが言語名の由来です(言語作者のザメンホフのニックネームがこれらしい)。
fariĝi は far-iĝ-i で分かれます。fari は "作る" なんですが,接中辞 -iĝ- が少し難しくて,これは他動詞を自動詞に転換する機能を持ちます(対義形態素は -ig-)。例えば fermi "閉める" > fermiĝi "閉まる" のような感じです。
fari O Cで "O を C にする" なので,これを自動詞化すると O が主語になるので,S fariĝi C "S が Cになる" という理屈です。