
隣の街がたいへんだ!シリーズ、第三弾、練馬美術館建て替え問題の後編です。設計案そのものが問題だ!とされる新美術館とはどんなものなのか?ごらんください。
(前編はこちら)
https://nishiogidrunker.hateblo.jp/entry/2024/12/09/104910
2024.8.27区役所での「懇談会」の前に、私は隣の駅・中村橋にある練馬美術館に行きました。企画展は「平田晃久・人間の波打ちぎわ」。そう、まさに問題の新美術館の設計者の大規模個展なのでした。

1Fロビーはこんなことになっていた。美術館のピアノを梱包して、その音をランダムに各所のスピーカーから流すというインスタレーション。なんかよくあるヤツだな!という印象。もはや美術の人はあんまりやらない、変な商業施設とかでアートと称してやりそうな感じ。網の素材も安いし、造形的にも雑に思える…(はい。今回はディスり全開です)。
ちなみに1000円。練馬「区立」美術館・貫井「区立」図書館のデザインも出てるのに、区民がそれを見るのに1000円。いや、私は杉並区民だから払うけど。「区立」美術館・図書館の設計案だけロビーに置いてあげればいいじゃん、こんな網吊ってないで。
と、入る前から荒んだ心で、人気建築家(原宿駅の建て替え、ハラカドをやった人、というとみなさんお察しになる)の「からまりしろ」理論を拝見。各所にモニターがあって作家によるギャラリーツアーの映像が流れており、すべて自分で解説しているのだ。ウザい。なんていうか、他の見方を許さない感じ?
しかし民家やショールームから始まり、日本各地や台湾でも着実に大きな建築を手がけるようになり、この行政にからまりしろを持つサクセスストーリーはポスト隈研吾?隈研吾の公共施設が腐って建て替えになったらこの人がゲットするんじゃないか、という勢い。


(展示はこんな感じ。区の職員らしき人が見ていた。1000円払ったのだろうか)
そんな新美術館・図書館がこれ。
最初小さい写真を見たとき、私は意外といいんじゃない?と思ってしまいました。
なぜなら、今の美術館は大階段でアプローチ、展示室に行くにもさらに階段、二つの展示室が分離していて(別々に使うにはいいけど、割と企画展は1本立て)第三展示室に行くにはぐるっと回ってまた降りる。エレベーターは遠いところにあるだけで、バリアフリーが乏しいし、パッと展覧会のイメージがつかめない。
とはいえ、築37年で建て替えとはいまどき許されないでしょ。

(現在の練馬美術館)
それが前庭からこのスロープみたいのでくるりと入れるのはいいんじゃないの?と、見えたのだけど。
あれ?これ、スロープじゃなくて階段?このヒラヒラは単なるバルコニー(シェードと呼ばれている)?アプローチはどこから?え?1階は収蔵庫?もしかして、これ、ただの…飾り?
平田晃久氏のセルフ解説では「土地に対して床面積を増やすのが建築(聞き違いか?)」「キャベツのように重なる層で床面積が増える(大意だが、これはそう言っていた)」。でも、キャベツの食べられない部分が増えている…


設計プロセスでワークショップをやりました、ともあるけど、その展示の仕方もこれだ、引き出して見られないんですよ。なめてるよね。それに子どもが花火の絵とか楽しく描くことがほんとに設計に参加することなのか。設計という精密な問題について素人を参加させようと取り繕うワークショップとは、すでに決まっている設計案を出して、それに感想やお気持ちを付箋に書くだけにならないか。
この人、ワークショップで市民の声を聞くことが新鮮だ、みたいに言ってるけど、ワークショップは(実効性はともかく)もう20年以上公共施設のトレンドだと思うんだけどな。


そして、この前の部屋にあった太田市美術館・図書館。最初見て「あぁ、これが練馬美術館か、写真で見たやつ」…と、思ってしまった。そっくりじゃないですか!
でもこれは太田市の前方後円墳をモチーフにした地域のランドマークになる建物だそうで、練馬区のは富士塚(なぜ?そりゃ練馬区にも富士塚はあるが…)をモチーフにした地域のランドマークになる建物だそう。太田市と練馬区のアイデンティティは違うのでは。


そして小さな模型をのぞき込むと…
出た!高層本棚!これはダメ図書館確定!
しかも、なぜ??すべり台?!
高層本棚とは、佐賀県でTSUTAYAに運営させる図書館が作られたときに、バエ重視で手の届かないとこまで聳える本棚が設置されたことから。当然上の方に本を入れることはできず、ついでに下の方もTSUTAYAが要らない本を適当に押し込んでいたことが判明しているのだけど、それでも全国の首長さんが、うちもあれ欲しい~!と真似するように。隈研吾も所沢でやってた。
それやったのが、杉並区の東隣、中野区東図書館(下写真)も。吹き抜け2階分の本棚、使えるのは下のフロアだけ。上は落下したら危ないからモック(しかも安っぽいのでバエない)や「季節の展示」というどっかから取ってきた写真パネル。


平田氏の他の図書館も、全部これ。これは台湾のCanyon Knowledge知識の渓谷。通路に高層本棚で、反対は建物を分断する崖になってる。これじゃあ知識が崖に落ちていくわ。
あるいは書棚がスライド式でフロアの中を動いて組み替えられる、とかもあった(絶対すぐに固定される)。
みなさん。図書館は遊ぶところではありません!
なぜすべり台が!!
最近は、人々の本離れが危惧されているから、図書館にしろ書店にしろ、遊ぶところですよ~バエるところですよ~カフェもあります~本が好きじゃなくても楽しめますよ~すべれますよ~、として敷居を下げているつもりかもしれない。で、その結果、本が好きな人、真面目に本を探してる人には使いにくくなる。さらに、がっつり蔵書を入れられない本棚や、遊びに予算使ってしまったせいで蔵書が買えない。これじゃあ図書館の本離れ!
平田氏はあんまり図書館とか行ったことないタイプなのかな?
と、1000円分思いきり悪口雑言を仕入れ、練馬駅の区役所、2024.8.27「練馬区立美術館を考える会」と「貫井図書館利用者の会」の二つの区民グループが主催した「区との第3回懇談会」へ。
この会は行政の課長級に質問するのが前半。後半は区職員は帰って、区民同士の意見交換という構成でした。
区民グループには美術、建築、図書館などの専門家も共同代表として入っていて、その人たちからの意見書も出されました。
と、いうわけで、展覧会での私の印象の答え合わせです。
・シェードが無駄
大内要三さん(ジャーナリスト):アートとしての新規さが勝っていて、大前提としての機能が二の次。回廊(シェード)は作品展示にも収蔵にも影響しない部分。練馬区美術館は小さくてもキラリと光る企画を繰り出してきた。莫大な予算で都立や国立と張り合う必要はない。
・図書館が軽視されている
永田浩三さん(武蔵大学・メディア):図書館は自治体の持ち味が最も出せるところ。大事な本が継続的に選書、活用され、蔵書が素晴らしい図書館は少ない。今回のはどんな先駆性があるのか?
山本由美さん(和光大学・教育行政):1階から4階までの6層構造、閉架が多い、吹き抜け、シェードは必要と思えない。「現状から大きく転換した新しい図書館」「図書館と美術館の融合」の実態は図書館機能の後退、地域図書館の文化活動・運動を軽視している。

・吹き抜けは不適
図書館の吹き抜けは下のフロアの声が響く。フロアを分けることで子どもが元気に楽しめる、と言うが、吹き抜けがあったら意味がない。
「バエる建築」は吹き抜けも大好きなんですよね…。資料保護のための気密性ということは二の次。声だけでなく、外気や湿気も上がりやすくなります。
ほんと、図書館は遊ぶところじゃないんだって!
・配置がおかしい
1階に美術館収蔵庫について、区は「文科相の管理ハンドブックで地下には作れない」と言い張りましたが、「最近の建築の金沢21世紀美術館、東京藝大も地下収蔵庫で、柔軟に運用されている」と大内氏が反論。「地下NG」は川崎市民ミュージアム(多摩川に隣接)が水没して全滅したことから、というのだが、中村橋には川はないし…
その他、部屋の配置については「美術館と図書館のスタッフルームが兼用」というとんでもないものも!
シェードについては「街と人を繋げ、年齢障害に関わらず美術に触れることができる」というキャッチコピーだそうですが、階段だよ?夏は暑いし冬は寒いし雨でも風でも手すりの高さは建築基準法110cmを下回る100cm。
さらに区からは「美術品、図書を保護する」という謎の主張まで出てきて、参加者も騒然。最初から日光入れたらダメでしょう!オープンエアーが今どき人気だけど、美術館も図書館も、カフェや公園ではありません。なんでもオープンにすればいいというものではない。
・太田市のコピペを富士塚と称している
美術館を考える会のみなさんは太田市まで視察に行ったそう。行ってみたら外階段や屋上は閉鎖していた、シェードの奥のガラスには「デザイン上」カーテンが吊れない、など、早くも運用で持て余している様子。
工事の内幕では地元・太田市下請けに断られ、平田氏が都内の工事事務所(社長一人だけの二次請け)に委託した、という雑な話も…
太田市のは前方後円墳、練馬区のは富士塚なんだ!というこじつけも、地元の人からは「なんで?」という感想。さらに大内氏の意見書では「富士塚は修行のための信仰の場で富士山を見る展望台ではない」とまで。
最後に、平田晃久氏と前川区長の問題。これは区がいなくなったあと、どんどん情報交換されていましたが
・太田市のは市長案件。練馬区も前川区長が任期中にデカいハコものを作りたがっている。しかも「国宝を飾りたい」とか勘違いしたことを言っている(それなら日光が入らないようにしないと…)。
・練馬区美術館の館長が今年2月に抗議(と、明言はしていないが)の辞任をしている。
・前川区長の任期に間に合わせるため、基本設計を1年に(通常2年)短縮。それで太田市のコピペを持ってきたのでは。
・プロポーザルの評価で「街並みにマッチしている」が平田案は満点の45点。もう1社は37点で、この抽象的な評価の上乗せで平田案が勝ったのではないか。どう見ても街並みにマッチしていない。
なお、基本設計時点では外壁は杉板だったそう(8月にはスレートと説明)。腐るとこだった。やはりポスト隈研吾…?
隣の街がたいへんですが、こういうのは必ず他にも波及します。気をつけましょう。