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方言をめぐるアレコレ、あるいは記憶の継承について

砂浜の写真。


父親が福岡、母親が長崎出身なので、幼少期には福岡弁と長崎弁が混ざったような方言を喋っていた。父親は多忙であまり家にいなくて、母親と話す時間のほうが圧倒的に長かったのもあってか、長崎弁70%、福岡弁30%くらいの割合で混じっていたように記憶している。母方、父方それぞれの祖父母と話すと、訛りが強すぎて聞き取れない部分もあったが、日常会話をする分には何も問題なかった。

 

それから父親の仕事の都合で、3〜4年ほど東京に移り住んだ。そこで同級生から方言がおかしいとからかわれて、標準語東京弁?)を使うようになった。標準語を習得するのに苦労した記憶はない。しかし、その後、また父親の仕事の都合で福岡に引っ越した際、今度は標準語を喋っているのがおかしいとからかわれた。いじめや両親との諍いなども重なって、そのとき不登校になった。中学を卒業するまで、6年ほど引きこもった。方言を再習得することなく、標準語のまま大きくなった。

 

福岡県内の高校に進学したのちも、標準語を使った。少し努力をすれば福岡弁を習得することもできたのかもしれないが、特にからかわれることはなかったので、そのまま標準語を使った。他方で、福岡弁と一口に言っても、地域によって違いがある——ものによっては、かなりの違いがある——ことが衝撃だった。特に、北九州のほうから通学している同級生の方言や、飯塚など福岡の南のほう出身の教師の方言などは、まったく聞き馴染みがなくてびっくりした。

 

それから大学進学を機に東京に住むようになって、10年以上が経つ。帰省は何度かしたけれど、うつ病によって体調が不安定になったり、パニック障害によって飛行機や電車に乗ることへの恐怖が増長したり、あるいは、親族から自分がクィアであることを否定される経験が重なったりした結果、九州からずいぶんと遠ざかってしまった。標準語を聞き、標準語を喋り、標準語を読む。そんな世界にどっぷり浸かっていた。

 

しかし、つい最近、方言によって古い記憶を思い出す機会が何度かあった。1つ目は、吉田修一の小説を原作をもとにした映画「国宝」を見たときだ。冒頭、主人公が歌舞伎役者の家に引き取られる前の、出身地でのシーンがあるのだが、会話の様子がものすごく聞き馴染みがあるのだ。一緒に映画を見に行った彼氏は「何を言ってるかまったくわからなかった」と言っていたが、わたしはすんなりと会話の内容が耳に入ってきた。そう、母方の祖父母が喋っていた長崎弁だったのだ(ちなみに吉田修一も長崎出身である)

 

標準語の世界にどっぷり浸かっていたけれど、九州からずいぶんと遠ざかったと思っていたけれど、方言を聞き取る力はいまだに耳に(脳に)残っているのだ。びっくりした。当たり前のことだけれど、幼少期の頃の自分といまの自分は、地続きなのだ。そのことをはっきりと自覚させられた。

 

方言によって古い記憶を思い出す機会の2つ目は、長崎原爆の日に、とある被爆者の語りを聞いたときだった。方言もさることながら、戦時中や戦後の体験を語るその様子が、祖父母のそれとものすごく似ていた。わたしが子どもの頃、祖父母の家に遊びに行くと、必ず戦争の話をしてくれた。時に、熱を帯びて顔を真っ赤にしながら。時に、冗談や笑いを交えながら。時に、ほろほろと涙を流しながら。具体的な内容はかなり忘れてしまった(メモを取る、録音をするなどして記録しておけばよかったと激しく後悔している)けれど、あの語りの様子は——方言とともに——はっきりと記憶している。

 

そんな祖父母も、数年前に他界してしまった。もっといろんな話を聞いておけばよかったと、いまになって思う。どんな時期に、どんな場所で、どんな風にして暮らしていたのか。何を見て、何を聞いて、何を考えてきたのか。もちろんいまからだって、残された資料に当たったり、ひとづてに聞いた話などから想像したりすることはできるし、やっていくつもりだ。でも、本人から直接聞くことだけはもう叶わない。

 

戦後80年という現在、「記憶をいかに語り継ぐか」ということが問題になっている。あのとき何が起きたのか、どのように戦争が進んでいったのか、誰がどのように意思決定を行なったのか、どれくらいのひとが亡くなったのか。そういった客観的な事実やデータを記録し、継承するのはもちろん大事なことだけれど、祖父母が方言混じりに必死に言葉を紡ぎ、伝えようとした、あの様子だって忘れてはならないのだと感じている。




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