対戦シミュレーション(3)ギリシャ
ブラジルW杯のグループリーグ第2戦で日本が対戦するのは、FIFAランキング12位(12月11日現在)のギリシャ。同じグループのコロンビアやコートジボワールのようにスター選手がいるわけではないが、組織力が高く、初優勝を遂げたEURO2004から受け継がれている"堅守速攻"は、今も健在だ。今回の欧州予選でも、10試合中8試合が無失点。失点はわずかに4という数字から、それは証明されている。
欧州予選では、ボスニア・ヘルツェゴビナに得失点差でグループ首位の座を譲ったが、強敵ルーマニアとのプレーオフでは、2試合トータル4−2(ホーム3−1、アウェー1−1)で勝利。ここ一番の勝負強さは相変わらずで、FIFAランキングでイングランド(13位)を上回っているのも頷(うなず)ける。
最大の特長は、選手全員が基本に忠実で、90分間のハードワークを惜しまないところにある。取り立ててテクニックに優れた選手がいるわけではないが、個々のフィジカルとスピードはヨーロッパの強豪国と肩を並べる。また、闘争心やプレイの粘り強さを前面に出す選手がそろっており、それがチームとしての色になっているのだ。
基本システムは、4−1−4−1。ディフェンスラインが自陣の深くに構えて、相手を引きつけてからボールを奪取。そこから一気にカウンターを仕掛ける戦法が最大の武器だ。しかも、国内組の選手を中心にレギュラーがほぼ固定されているので、守備の連動性はかなり高いレベルにある。その強固なディフェンスは、まさしく「難攻不落」という言葉が相応しい。
その守備の中心となっているのが、ソクラティス・パパスタソプーロス(ドルトムント/ドイツ)と、ディミトリス・シオバス(オリンピアコス/ギリシャ)の長身センターバックコンビだ。強さを前面に出す、典型的なヨーロッパ型のDFで、空中戦の強さは申し分ない。
一方、両サイドバックは俊敏性と機動力を兼ね備えている。左サイドバックのホセ・ホレバス(オリンピアコス/ギリシャ)は、右サイドやサイドハーフもできるユーティリティープレイヤーで、右サイドバックのバシリス・トロシディス(ローマ/イタリア)同様、カウンター時は積極的に攻撃に参加する。
また、中盤の底でアンカー役を務めるアレクサンドロス・ツィオリス(PAOK/ギリシャ)は、中盤4人と最終ライン4人が空けたスペースを献身的に埋め、ある意味、それがギリシャの堅守の支えとなっている。
中盤の4人は、右からディミトリス・サルピンギディス(PAOK/ギリシャ)、ヨアンニス・マニアティス(オリンピアコス/ギリシャ)、コンスタンティノス・カツラニス(PAOK/ギリシャ)、そしてゲオルギオス・サマラス(セルティック/スコットランド)が並ぶ。
ポイントは、両サイドハーフのサルピンギディスとサマラスだ。右のサルピンギディスは機動力と攻撃センスに優れ、左のサマラスはかつて中村俊輔のチームメイトだった長身FWで、彼らアタッカーをサイドハーフに置くことでスピーディーかつアグレッシブなカウンターアタックを可能にしているのだ。
そして、日本が最も警戒しなければいけないのが、1トップのコンスタンティノス・ミトログル(オリンピアコス/ギリシャ)である。ミトログルは決して器用なタイプではないが、相手ディフェンスラインの間を突いて裏のスペースに飛び出すプレイと、強烈なミドルシュートを武器とする本格派のストライカーだ。DFとの駆け引きもうまく、味方からのクロスへの入り方を含めてエリア内のポジショニングにも優れている。
チームを率いるのは、ポルトガル人のフェルナンド・サントス監督。怪我のため若くして現役を引退したが、指導者としてキャリアを重ねきた人物だ。ポルトガルの名門ポルトが、偉業となるリーグ5連覇(1994−1995〜1998−1999)目を成し遂げたときの監督(1998年〜2001年まで指揮)として名をあげると、その後はAEKやパナシナイコスなどギリシャの強豪クラブの監督を歴任。そして2010年、名将オットー・レーハーゲルの長期政権を引き継いで、ギリシャ代表監督に就任した。
ギリシャをヨーロッパチャンピオンに導いたレーハーゲル前監督はクラッシックなスタイルを貫いたが、フェルナンド・サントス監督は前任者のコンセプトをベースに、モダンなエッセンスを加えて、現在のチームを作り上げている。特に守備から攻撃へ移るときのアグレッシブさは、レーハーゲル時代にはなかった要素だ。
そういう意味では、日本はカウンター対策をしっかり整えておく必要がある。絶対に避けなければいけない展開は、日本がギリシャ陣内でボールをキープしている間にボールを失い、後方が手薄な状況でカウンターアタックを受けてしまうパターンだ。そのためにも、両サイドバックとボランチの選手は、ことさらに攻守のバランスを意識しておきたい。
逆に言えば、ギリシャの特性上、日本はほぼ相手陣内でゲームが進められることは間違いない。その分、よりアグレッシブに連続攻撃を仕掛けることができるはずだ。そこで先制点を決めることができれば、勝ち点3も見えてくる。
ポイントになるのが、おそらく相手のアンカーであるツィオリスがほぼマンマークでついてくることが予想される、トップ下の本田圭佑の動き。能力的には本田のほうが上で、常に優位な状況を作れるだろうが、中央で構える本田にボールを集め過ぎるとカウンターの危険が伴う。ならば、本田がツィオリスをうまく誘い出す動きをすることも重要。そうすれば、中央付近に必ずスペースが生まれるので、そのスペースを周囲の選手が有効に使って決定機を生み出したい。
初戦のコートジボワール戦の試合結果にかかわらず、日本にとって2戦目のギリシャ戦はグループリーグ突破のためにも、是が非でも勝利がほしい重要な試合である。もちろん相手を侮れば、敗戦の可能性は高くなるが、しっかり相手を研究して挑めば、FIFAランキング48位の日本でも、12位のギリシャに勝利することは不可能ではないだろう。
中山 淳●文 text by Nakayama Atsushi