■何度も映像化されている『家族ゲーム』
『家族ゲーム』の原作が発表されたのは、今から32年前の1981年。本間洋平という作家がこの小説で第5回すばる文学賞を受賞して、すばる本誌に掲載されたのが最初だった。翌年の1982年1月に単行本として発売され、その年の11月には早くもテレ朝系で2時間ドラマになっている。
この時に家庭教師の吉本を演じたのは鹿賀丈史。原作では兄と弟の2人兄弟がいる沼田家に勉強を教えに行くが、このドラマの沼田家は姉と弟で、その姉を岸本加世子が演じていた。テレ朝版の『家族ゲーム』は、1984年3月にもほぼ同じメンバーで続編が作られているが、残念ながらどちらもDVD化はされていない。
そして、1983年6月に公開されたのが、森田芳光監督の映画『家族ゲーム』だ。家庭教師の吉本を演じたのは松田優作。次男の茂之を宮川一朗太、父親を伊丹十三、母親を由紀さおりが演じていた。食卓が横長のテーブルで、吉本を含め、家族全員がカメラのほうを向いて食事をする演出は印象的だった。森田芳光、松田優作、伊丹十三、ともに現在は故人となってしまっているが、宮川一朗太は櫻井翔が主演する今回の『家族ゲーム』の初回にゲスト出演している。家電メーカーで働く沼田家の父親(板尾創路)の同僚役で、人事部に所属する父親からリストラをされてしまうという役だった。
この1983年には、8月から9月にかけて、TBS系でも全6話で『家族ゲーム』は映像化された。家庭教師の吉本を演じたのは長渕剛、次男の茂之は松田洋治、父親は伊東四朗、母親は白川由美だった。松田洋治というと、今は『もののけ姫』のアシタカの声の人、みたいな覚え方をされているかもしれないが、当時は多くのドラマに出演していた有名子役だった。
この全6話の『家族ゲーム』は最終回が20%を超える視聴率を取ったこともあって、今でも茂之の役というと、映画版の宮川一朗太より、松田洋治を思い出す人が多かったりする。ていうか、映画版に松田洋治が出ていたと覚え間違いをしている人が意外と多いのも事実だ。とにかく、このTBS版の『家族ゲーム』は、その後1984年に全11話で連ドラ化され、1985年にはスペシャルも作られるほど話題になった。ただ、続編はほぼオリジナルの内容で、原作からは離れたものになっている。
こうして、最後の映像化から29年ぶりに連ドラとして戻ってきたのが、今回のフジテレビ版『家族ゲーム』というわけだ。家庭教師の吉本は櫻井翔、沼田家の長男・慎一は神木隆之介、父親は板尾創路、母親は鈴木保奈美、そして次男・茂之は、丸山隆平が主演したテレ朝系の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で脩の役をやっていた浦上晟周が演じている。
■吉本の過去も描いているフジテレビ版
『家族ゲーム』という物語は、破天荒な家庭教師が、いろいろな問題を抱えている家族のもとへやって来る話だが、今回のフジテレビ版は、基本的にオリジナルな作品と考えていい。そもそも原作は30年以上前のものなので、受験戦争が背景にあったし、一般家庭の象徴は団地という時代の物語だった。体罰に関しても寛容で、原作では家庭教師の吉本が茂之を頻繁に殴ったり蹴ったりするし、父親もそれくらいしたほうがいいという考えで問題にはならなかった。映画でも吉本が茂之をひっぱたくシーンはある。
一方、今回のフジテレビ版では、兄弟それぞれに個室がある大きな一軒家という設定で、吉本は基本的に沼田家の人々を精神的に追い込んでいくような展開になっている。家族の問題にしても、父親が仕事で不正をしたり、母親が株で大損したりと、崩壊している家族の姿が分かりやすく描かれている。そして何よりも原作や過去の映像作品と大きく違うのは、吉本の過去やその目的が、かなりハッキリと盛り込まれている点だ。
映画では吉本が女性(阿木燿子が演じていた)と過ごしているシーンがあったり、全6話のTBS版では吉本が住むアパートが出てきたりもしたが、もともとこの吉本という家庭教師は、三流大学に7年も通っているということ以外、私生活は不明で、どこから来て、どこへ行ったのかも分からない存在だった。それがフジテレビ版では、じつは吉本は“東大卒の吉本”を名乗っているだけで、本当は“田子雄大”という名前の元・中学教師であることがすでに語られている。
また、本物の吉本は田子の元同僚で、現在は病院で生命維持装置に繋がれている状態であることも描写されている。第8話終了時点ではまだすべてが明らかになっているわけではないが、この田子の過去が、沼田家における吉本=田子の言動の理由づけになることは間違いない流れだ。
原作でも、吉本の目的がまったく描かれていないわけではなかった。原作では終盤に「失敗だった、おれのやり方は、……おれは、やっぱり、受け入れられなかったんだなあ」と吉本がつぶやくシーンがある。さらに、「一時的に強制しても、同じことなんだなあ。……結局、家庭という枠のなかでね、それぞれの人たちが、互いに作用しあって、生きてきて、その結果、茂之君が今のように育ってきたわけなんだから」というセリフもある。つまり、吉本はどこかで茂之が、そして沼田家が変わることを期待していたけれど、結局、変わることはなかったことを嘆いているのだ。
茂之も沼田家も、結局は変わらない。今回のフジテレビ版では、この部分が第8話のラストで描かれた。となると、はたしてフジテレビ版の結末はどういうものになるのだろうか。
■はたして救いのある結末になるのか?
今回のドラマの第8話では、株で大損した母親の借金返済のために父親が会社の金を横領し、それがバレて会社をクビになった。母親は長男の慎一が万引きしていたことを知りながら、何も言えなかったことが慎一自身にバレた。そして、茂之は、自分をイジメていたグループのリーダーを、今度は自分がイジメてしまった。こうして、沼田家は完全に崩壊するのだが、吉本=田子は、これまで自分が沼田家に仕掛けてきた内容を明かした上で、この家は壊れるべきして壊れたのだと言い放った。その後に展開された家族全員が家の中をメチャクチャにしていくシーンは、映画版の有名なラストを彷彿とさせるものだった。
映画版では、茂之の受験が終わったあとに、食卓がメチャクチャになるシーンがあった。普通に食事をしているシーンから徐々にテーブルの上を食べ物が飛び交い、兄弟がケンカを始め、松田優作が演じる吉本が家族全員をぶん殴り、最後はテーブルをひっくり返してどこかへ去って行ってしまう。それでも沼田家には、またぼんやりとした日常が訪れるというシュールな終わり方だった。
ちなみに、全6話のTBS版にはそういうシーンはないが、茂之が合格した高校へ登校しようとすると、団地の屋上から高校生が飛び降り自殺するというショッキングなシーンが付け加えられている。そして、茂之はその光景を一瞥しただけで学校へ向かってしまう。茂之が吉本によって受験戦争に勝つというストーリーを示しながら、茂之の本質は何も変わっていないことを象徴するようなラストだった。
では、今回のフジテレビ版のラストは、いったいどうなるのか。結局、沼田家は何も変わらず、崩壊してしまったあとに、何をどう描くのか。もちろん、吉本=田子の過去がハッキリと描かれ、それがさらに沼田家に何だかの変化をもたらすオリジナルの展開があるのだろうと思う。でも、はたしてそこに救いはあるのだろうか。
吉本=田子の過去がかなりハードなものであることは想像できるし、テレビドラマという性質上、まったく救いのないラストは考えにくい。だからこそ8話で家族崩壊を描いたんだと思う。ただ、すべてまるく収まるハッピーなラストでは、『家族ゲーム』ではなくなってしまうような気もする。
うーん、どのくらいのさじ加減で今回のドラマを終わらせるのか、ますます目が離せなくなってしまった。
ちなみに、『家族ゲーム』の裏番組、日テレ系水曜10時の『雲の階段』も、じつは『家族ゲーム』と同じ1982年に単行本化された渡辺淳一の小説が原作。なので、すでに時代に合わせて内容がだいぶ変わってきている。ニセ医者が逃げ切ってしまう展開はテレビドラマでは許されないだろうし、こちらも結末を予想しながら見るとかなり面白い。水曜10時の連ドラは、どちらも最後まで楽しめそうだ。
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