「入浴法」が独特すぎる草津温泉

雪が降る日が増えるなど冬本番のこの季節、恋しくなるのが温泉だ。関東の温泉地のひとつ、群馬県の草津温泉に古くから伝わる「時間湯」という入浴方法をご存じだろうか。かなり独特な雰囲気を醸し出しているので、その方法や効果をご紹介したい。




草津の時間湯オフィシャルサイトによると、まず入浴前に神棚に参拝することから始まる。この時点ですでに通常の入浴法と一線を画しているが、その後高温の源泉の温度を下げるため「湯もみ」を行う。巨大な木の板でリズミカルに湯をかき回す、あれだ。そして次の工程がこの冷ましたお湯を、タオルをかぶせた頭にかける「かぶり湯」。これにより血行を良くし、入浴時ののぼせや貧血を防ぐ効果があるとのこと。また、血管を開くことにより入浴効果も高まるそうだ。




そしていよいよ入浴。入浴する人たちは「脇の下、股間を開けて、リラックスして」湯に入る。そしてここからが時間湯の最も独特なシーン。湯に浸っている間（3分間）は常に「湯長」（ゆちょう）と呼ばれる号令係の号令に応えなければならない。以下が時間湯で決められている入浴中のやりとりだ。



湯長　「したくが宜しければソロソロ下がりましょう」

入浴客「オー！」

湯長　「そろって3分〜」

入浴客「オー！」

湯長　「改正の2分〜」（1分経過）

入浴客「オー！」

湯長　「限って1分〜」（2分経過）

入浴客「オー！」

湯長　「チックリご辛抱〜」（30秒前）

入浴客「オー！」

湯長　「辛抱のしどころ〜」（15秒前）

入浴客「オー！」

湯長　「もうじきです」（10秒前）

入浴客「ありがたい」

湯長　「いかがですか」（5秒前）

入浴客「効きました」

湯長　「さあ効きましたらソロソロ上がりましょう」

入浴客「オー！」


3分間、割とひっきりなしに湯長との声の応酬が続く。これは湯長が入浴客の体の状態を見るとともに、かけ声を出すことによって腹式呼吸になり、自然治癒力を高める効果があるのだそうだ。




そして入浴中、3分という短時間にもかかわらず「辛抱」とか「もうじき」とかいう言葉が飛び交うのは、実はこの温泉が湯もみをしてなお48℃もある熱湯風呂だから。通常の風呂が40℃程度、41℃以上で熱めとされることからすると、相当熱い。普通の風呂なら到底耐えられない熱さだが、そこは温泉ならではの秘密がある。草津温泉は、湯もみにより温泉と空気が触れ合うことでより泉質の濃度が濃くなり、湯の花ができる。湯の花はコロイド状のもので、これが入浴時に体の周りに薄い“膜”を作る。だから体感温度は低くなるというわけだ。そしてこの“48度に3分”は、長年研究された結果、最も安全で最も治療に適した入浴法なのだ。



つまり、湯もみによって濃い源泉にも浸かることができ、さらに決められた手順を踏むことでより湯治効果を高めることができる、理にかなった入浴法ということ。



しかし、いくら体に良いといっても、さすがに48℃はいきなり入るにはハードルが高い。というか、熱すぎる。というわけで、初心者でも門を叩きやすい熱めの温泉＝“あつ湯”を調べてみた。



まず先の「時間湯」の少し温度の低いものを体験できる場所がある。群馬県の「草津温泉　ホテルヴィレッジ」だ。湯畑・万代鉱・わたの湯の3つの源泉を楽しめ、わた湯の温度は43℃と比較的やさしい。時間湯体験のプログラムがあり、もちろん源泉かけ流しだ。



同じく草津温泉の「旅館美津木」では、熱めの湯を4種ある貸し切り風呂で楽しむことができる。温泉はいずれも24時間無料で貸し切ることができるから、「時間湯」風に友達同士でかけ声を出しあうことも可能だ。



もう少し熱めにチャレンジできそうなら、福島県の湯野上温泉にある「清水屋旅館」がいい。ここはお湯の温度がぬる湯からあつ湯まで、5つの露天風呂があり、あつ湯の温度は44℃。混浴露天風呂もあるので、家族やカップルにもおすすめだ。



ちなみにこの熱めのお湯には効果的な入浴時間というものがあり、適正な入浴時間は体の奥の体温「深層体温」（深部体温）が1℃上がる状態だという。この深層体温1℃上昇か一番気持ちよく感じ、湯冷めもしにくい。一方でこれ以上長湯し、深層体温が2℃以上あがると、赤血球の形がいびつになり血栓の危険が出てくるそうだ。



あつ湯ではくれぐれも我慢大会などはせず、気持ちよく体の芯から温まろう。



【関連リンク】

「あつ湯に入れる温泉宿」（ゆこゆこネット）