『ロンドンゾンビ紀行』
舞台はイギリスの下町、イーストロンドン地区。テリーとアンディの兄弟は危機に直面していた。大好きな祖父が入居する老人ホームが、かねてからの都市開発によって閉鎖されてしまうというのだ。この事態を打開するため、兄弟は仲間と共に強盗を計画。銀行に押し入った彼らは、首尾よく現金を手に入れることに成功する。喜びも束の間、銀行を出ると町中にはゾンビが徘徊、ロンドンは前代未聞のパニックに陥っていた。都市開発工事により、呪われた遺跡が掘り起こされ、死者たちが数百年の眠りから解き放たれてしまったからだ。ちょうどその頃、老人ホームにもゾンビの魔の手が迫っていた…。果たして、2人は無事に祖父を助けることができるのか。(
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イギリス発、地域密着型ゾンビコメディ!
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イギリス製ゾンビ映画といえば、『ショーン・オブ・ザ・デッド』。イギリスらしいウィットに富んだ笑い、テンポのいい展開、粋な音楽と意外にも感動的なストーリーが一体となった同作が、以降の“ゾンビコメディ”ブームを作り出したのは記憶に新しい。『
ロンドンゾンビ紀行』も同様のテイストの作品であり、あきらかに影響を受けていると言っていいだろう。しかし、本作はさらにその先を行く、ありそうでなかった“地域密着型”ゾンビコメディでなのある。まず、本作の主人公たちはコックニーと呼ばれる訛りのキツイ英語を話す、ロンドンの下町っ子。コックニーと言えば、ガイ・リッチー監督『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』に登場するようなギャングたちが話す言葉、とイメージする方が多いだろう。本作の舞台も同じくイーストエンド地区であるが、登場人物たちはギャングの抗争とは無縁の、下町に住む人々である。また、イーストエンドといえば、開発が進む一方で、貧困層を生んだ地区としても有名。主人公兄弟も安定した職にはつけず、その他の仲間も同様で、老人ホームのためやむなく強盗をしてしまうのである。そもそもゾンビの発生は地域開発が原因だったりと、しっかりイギリスの世相を反映していたりするのである。
こういった設定以外にも、主人公たちの移動手段として何故かロンドンバスが大活躍したり、死者になってなおも争うゾンビフーリガン集団なども登場。おまけに『ロック、ストック〜』の主人公の一人、ソープ役でお馴染みのデクスター・フレッチャーが、ある重要な役で友情出演するなど、イギリス風俗がとにかく満載。本作はいわば、『ショーン・オブ・ザ・デッド』と『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』を足した面白さと、イギリス旅情を一緒に体験できる、一石二鳥なハイブリッド・ゾンビ映画なのである。
安心のクオリティ。これがゾンビコメディ大国の実力だ!
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ゾンビコメディの本場、イギリスの作品なので、単純なゾンビ映画としての品質もかなりハイクオリティである。R-15指定を受けている作品なので、しょっぱなから顔面を食いちぎる、ナカナカに残酷なシーンも登場。手榴弾で爆発するゾンビ、スコップで首を飛ばされるゾンビなどなど、特殊効果にも一切手抜きはない。主人公集団も、ちょっと頭の弱い弟、しっかりものの兄貴、ムチムチ巨乳の従姉妹、マヌケキャラ、ネジの緩んだ狂犬キャラ、お嬢様系ヒロインなど、バラエティ豊かな面々が揃うなど、まさにゾンビコメディの王道。また『ショーン・オブ・ザ・デッド』では、劇中で流れるQUEENの「DON'T STOP ME NOW」が印象的だったが、本作ではSuedeの名曲「Filmstar」が燃えるシーンで使われるなど、サントラが欲しくなるほどカッコイイ音楽で映画全編が彩られている。しかも、安いゾンビ映画にありがちな“物語の舞台が一箇所だけ、しかも閉鎖空間”という、安易な設定ではなく、銀行からの脱出から老人ホームまで、目まぐるしく場面が変わり、実にスピード感があるのである。エンタテインメント性では『ショーン・オブ・ザ・デッド』に勝るとも劣らないレベルに達していると言ってもいいだろう。監督のマティアス・ハーネーは、カンヌ広告映画祭で金賞を撮った映像派監督だが、これだけのゾンビ愛を見せられれば、ゾンビ映画ファンも納得するはず。
死亡フラグをヘシ折る、後期高齢者パワーが炸裂!
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何より忘れてはならないのが、真の主人公とも言える、老人たちの活躍である。ゾンビ映画の老人といえば「どうせ老い先短いんじゃから、置いていってくれ…」と言い残し、ゾンビの餌食となるのがお決まりのパターン。しかし、本作にはそんなヤワな老人は登場しない。「もし私が噛まれて奴らの仲間になったら…」という、ありがちなセリフを吐くシーンもあるが、そんな死亡フラグをがっちりとヘシ折る生命力を彼らは見せてくれるのである。なかでも、歩行器が必要なおじいちゃんと、のろのろ歩くゾンビ軍団のチェイス?シーンは、どんな映画のカーチェイスよりもスリリング。かつてこれほど、“ゾンビはゆっくり移動する”という設定が活きた映画があっただろうか。股関節を手術していようが、車イスだろうが、耳がほとんど聞こえまいが、生きる希望を捨てないその姿は、実に痛快。かつてゾンビ映画で死んでいった老人たちも、本来は生きたかったはずなのだ。
そんな老人たちの中でも、最もエネルギッシュなのが、主人公兄弟の祖父を演じたベテラン俳優、アラン・フォードだ。『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』のナレーションや、『スナッチ』ギャングのボス役でお馴染みの俳優といえばわかるだろう。フォードは、いつものコワモテな雰囲気はそのまま、かつてナチスの基地に一人で殴り込んだ経験も持つ、元軍人の頑固じいさんを熱演している。老人ホームの後期高齢者たちを率い、マシンガンでゾンビたちを殺戮していく姿には胸を熱くせざるを得ない。また、このおじいちゃんと、主人公兄弟の家族愛シーンは涙なくしては語れない。普段はロクに職にもつけない兄弟だが、おじいちゃんのために体を張って死線をくぐり抜け、また一方のおじいちゃんも、出来の悪い孫たちのために命を投げ出してゾンビ軍団と戦うのである。少なくともこの一家の交流シーンだけで、フジモトは3回は泣きかけたことを報告しておこう。単に彼らが下町人情に溢れているからではなく、家族の本質に迫る場面が連続するのである。
お正月、実家に帰る時ぐらいしか、おじいちゃんおばあちゃんに会う機会がないという方も多いだろう。そんな方は、是非帰省後にでもに本作を観て欲しい。彼らがどれだけ自分の孫たちを愛しているか、改めて思い出せるはずだ。また、家族と本作を見れば、その愛が深まること間違いなし!新年の映画始めは、ロンドンゾンビで決まりだ。
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ロンドンゾンビ紀行』は2013年1月12日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
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『ロンドンゾンビ紀行』 - 公式サイト
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