9月29日の第27節、サガン鳥栖戦で4−1と快勝したあと、広島は10月に行なわれた3戦の成績が2分け1敗と勝利から遠ざかっていた。その間、一時は勝ち点5差をつけていた2位の仙台に勝ち点で並ばれた。それだけに札幌戦は、タイトルを狙ううえでどうしても勝ち点3が欲しい試合だった。そうしたムードを察してか、優勝を後押ししようという多くのファンが、平日にもかかわらず広島ビッグアーチに詰めかけた。
大声援が響く中、キャプテンの
佐藤寿人は、ピッチで円陣を組むチームメイトをこう鼓舞した。
「もう一度、自分たちの力を示そう」
優勝を意識しないと言えば嘘になる。プレッシャーがないと言えば嘘になる。ゆえに、10月の3試合はまずは失点しないことを考えて、慎重に戦い過ぎた部分があったと選手たちは言う。だからこそ、札幌戦ではアグレッシブに戦おうと、キックオフから攻撃のスイッチを入れた。
広島は最終ラインの千葉和彦、森脇良太、さらにはボランチの青山敏弘が、積極的に前線へと縦パスを配球。2列目の2シャドー、高萩洋次郎、森崎浩司がそれを受けると、相手DFの裏へ走る佐藤へ効果的なラストパスを供給していった。
試合後、札幌の石崎信弘監督は、「できれば、センターフォワード(佐藤)のところにくさびを入れさせず、サイドにボールを散らそうと言っていた」と、エース・佐藤への警戒を明かしたが、佐藤に仕事をさせないためには、本来そのパスの供給源である2シャドーとボランチを抑えなければいけない。だが、そこへのマークが緩かったことで、広島は得意の形から決定機を生み出していった。
前半16分、後方でゆっくりとボールを回していた広島は、1本の縦パスによって攻撃のスイッチを入れる。中盤の底を務める森崎和幸から双子の弟・浩司への縦パスだ。これを合図に、広島の選手たちはゴールに向かって動き出した。
そして、パスを受けた森崎浩は瞬時にこう判断した。
「縦パスを受けたとき、(高萩)洋次郎とヒサ(
佐藤寿人)の両方が見えた。洋次郎に出したほうがセーフティーだったけど、ヒサに出したほうが相手にとって危険だと思った」
その森崎浩からのパスを、佐藤は流れるような動きで前を向いて受けると、慌てて対応した相手DFに倒されてPKを奪取。これを森崎浩が決めて早くも先制した。その後もアグレッシブに戦う広島は、31分、今度は青山が前線の佐藤へ縦パスを通す。浮き球のスルーパスに佐藤は素早く反応すると、ダイレクトで左足を振り抜いてゴール右隅に2点目を追加した。
さらに後半も、CKから水本裕貴がヘディングシュートを決めて3−0と完勝。札幌の石崎監督が「個人としてもチームとしてもレベルが高かった」と認めたように、広島は首位らしく、結果以上に内容でも札幌を圧倒し、格の違いを見せつけた。
最大の勝因は、広島の攻撃の生命線である縦パスだった。1点目も2点目も、前線の佐藤への縦パスが得点につながった。そして、彼らが勝てなかった10月の3試合から学び、この試合で取り戻そうとしていたテーマはアグレッシブさであり、得点に至った2本の縦パスはまさにその象徴だった。
「ここ何試合か、チーム全体としてアグレッシブさがなかったので、そこを出さなければと全員が意識していた」
と佐藤が言えば、森崎和もそれに同意してこう語る。
「ここ数試合、アグレッシブさに欠けていた。2シャドーとヒサに対してくさびのパスを入れられれば分厚い攻撃ができる。10月の3試合ではそこを警戒されたけど、それでもくさびを入れていく勇気というのが必要で、今日の試合ではそれができた。首位らしいというか、自分たちがやってきたサッカーが出せた」