これは熱エネルギーによって情報が失われないために必要な対策だが、一方で情報を書き込むために大きな磁界が必要となるため、外部からエネルギーアシストをしなければ制御できない状況にまで達していることを意味する。
この打開策の1つとして、外部より高周波磁界を加えることで共鳴運動を引き起こし、スピンの反転に必要な磁界を下げる(マイクロ波アシスト磁化反転)ことが検討されているが、現在の電流による制御では書き込みのエネルギーが非常に大きくなってしまうという課題があった。
もし、今回実証した高周波電圧による共鳴制御を磁気記録の書き込みプロセスに導入することができれば、低消費電力なアシスト法を提供することが原理的に可能となり、さらなる記録密度の増大が可能になると見込まれる。
また、同様の原理は磁気メモリ素子にも適用可能であるため、特定の素子のみ共鳴運動でスピン反転に必要なエネルギーを下げることで、選択的に低エネルギーで情報を書き込むことも可能になるという。
また、近年の新たな展開として、スピンの揺らぎ(スピン波)やスピン角運動量(純スピン流)の流れを利用した情報伝送、さらにそれを用いた論理演算素子が提案されている。
これらに関しても今回の研究で開発された電圧によるスピン共鳴制御を用いることで、信号を低消費電力で、かつナノスケールの微小領域においても生成可能となるため、新たなスピンデバイスの低消費電力駆動化を促進することにつながるという。
なお、研究グループでは今後、実デバイスへの適用を検討するとともに、さらなる低電圧駆動化を目指して、電圧によってスピンの向きやすさが高感度で変化する磁石材料、絶縁層材料の探索を進める予定だとしている。