心筋梗塞は心臓の筋肉(心筋)の機能を支える冠動脈の血流が低下し、心筋が壊死状態になることを指す。つまり、心臓に酸素や栄養素を送る血管が詰まり(血栓)、心臓の筋肉が死んでしまう病気だ。松田選手の場合も練習中に突然発症し、心肺停止状態のままドクター・ヘリで長野県の病院へ搬送されたが、帰らぬ人となってしまった。
1日に約10万回も拍動する心臓は、少しでも酸素、栄養素が供給されなくなると、すぐに心臓の筋肉、心筋が動かなくなる。酸素不足の状態が長く続くと心筋が壊死することは前述した通りだ。
心筋はいったん壊死してしまうと、現在の医療では再生不能といわれている。たとえ、血流が回復したとしても、壊死した部分は動くことはないという。
「ですから、迅速かつ適切な処置が出来るか、出来ないかによって予後に大きな差ができる。心筋梗塞には、ゴールデンタイムという救命のための時間がある。それを生かせるかどうかが、命の分かれ道になってしまうわけです」
こう解説するのは、循環器系クリニックを営む医学博士・浦上尚之院長だ。
「私たちの体は、心臓から動脈を通って全身に送られる血液によって、酸素や栄養素が供給される仕組みになっています。この血液を循環させるポンプの役割が心臓の筋肉で、1分間に60〜70回くらい拍動し、1日10万回ポンプを収縮させては血液を循環させているんです。ところが、その冠動脈に突然、何らかの理由で血のかたまりができて、血管を詰まらせる血栓ができる。その先の心筋に酸素などがいかなくなれば、心筋は数秒間で動かなくなります。特に左主幹部(左冠動脈が枝分かれしている部分)が詰まると致命的です。しかし、心筋梗塞は、最初の数時間が最も大事で、初めの処置の成否が、文字通り生死を分けますし、退院後の生活にも大きくかかわってきます」(浦上院長)
心筋梗塞の死亡率は、半世紀前までは3割だった。それが集中治療室(ICU)の登場で15%に。さらに'80年代にカテーテル治療が導入されると、さらに半減しているという。
治療の進化は驚くべきものがあるが、専門医に言わせると「それでも助かるかどうかは時間との勝負」と言い、遅れるほど心筋の壊死は広がってしまい死に至る。また救命できても、脳へ酸素が送られない時間が長ければ長いほど後遺症が残る。
では、心筋梗塞の発作はどのようにして始まるのか。典型的な症状の第一段階として起きるのが「突然、強い胸の痛み」だ。専門用語で言う“胸痛(きょうつう)”。体験者の例を引くと「石で胸を潰されるような痛さ」「焼け火箸を胸に突き刺されたような…」「胸の中をえぐられるよう」などの痛みがあるという。
こうした痛みが20分以上、あるいは数時間続くこともある。ただ、この胸痛が何日も続くことはないといわれる。
前出の浦上院長も「せいぜい1日か2日ですが、痛みが感じなくなったということは、虚血状態の心筋がすべて壊死したと診断できます。ほかに顔色が悪くなり、目まいや嘔吐などの症状が出るし、重篤状態だと意識不明に陥る事もある。全身に十分な酸素がいかないからです」と語る。
(1)多くの場合、突然、胸の痛みが起こる。
(2)その症状が20分以上続く。
これらが重なった場合は、心筋梗塞が疑われるので、一刻も早く病院に行くべきだという。