12球団統一球は、従来に比べ打球の飛距離が出ないとされているが、渡辺会長は「
プロ野球の経営者としては、統一球ってのはどうだ? コマーシャルベースで考えれば、空中戦のほうが面白い」、「
日本だけの野球だったら、何もあんな統一球にする必要ないんじゃないかね。フェンス間際でみんなホームランにならないでアウト。これで観客数が減ってんだよ」と、統一球に疑問を投げかけた。
歯に衣着せぬ発言で、球界内外に波紋を投じている渡辺会長だが、今回の発言には一理ある。たしかに、12球団統一球の採用により、今年のプロ野球は
投高打低に転じ、多くの球団で
観客動員数が伸び悩んでいる。
本塁打数は、セリーグで昨年の
863本から今年は
414本、パリーグで
742本から
413本に大きく減少。12球団とも、概ね20試合近くを残しているが、
本塁打数が昨年に追いつかないのは確実だ。
1試合あたりの平均得点も、セリーグで
4.31点から
3.15点、パリーグでも
4.47点から
3.42点と、1点以上も減少。リーグ平均打率も、セリーグで
.267から
.244、パリーグでも
.271から
.252に低下した。
打撃成績が悪化する一方で、投球成績は改善している。リーグ平均防御率は、セリーグで
4.13から
3.07、パリーグで
3.94から
2.93と、1点近くも下がっている。
個人成績を見ても、
防御率1点台の先発投手が両リーグ合わせて
6人もいる。セリーグで、ジャイアンツの
内海哲也(防御率1.59)、
中日ドラゴンズの
吉見一起(同1.60)、
東京ヤクルトスワローズの
館山昌平(同1.85)、パリーグでは、
東北楽天ゴールデンイーグルスの
田中将大(同1.35)、
北海道日本ハムファイターズの
ダルビッシュ有(同1.48)、
福岡ソフトバンクホークスの
和田毅(同1.70)だ。
これほど投高打低の傾向が明確なシーズンは、過去に例を見ないのではなかろうか。
観客動員数も、渡辺会長が指摘するように、昨年から減少している。1試合あたりの観客動員数が昨年を上回ったのは、
5.5%増のホークス、
4.9%増のゴールデンイーグルス、
4.1%増のファイターズ、
2.9%増の
広島東洋カープの4球団のみ。
阪神タイガースとスワローズは
前年水準、
横浜ベイスターズは
7.3%、ジャイアンツは
8.9%、
千葉ロッテマリーンズは
13.3%も昨年を下回った。12球団全体でも、
2.1%減だ。
だが、
12球団統一球による投高打低の傾向と、観客動員数の減少を、今ここで結びつけるのは、あまりにも早急過ぎるのではなかろうか。
そもそも、昨年と今年では、試合が開催された
曜日、
天候、
チームの調子など、条件が異なる。何より、3月11日に発生した
東日本大震災、
東京電力福島第一原子力発電所事故などの影響で、開幕が1カ月間近く遅れた他、被災地のゴールデンイーグルス、関東のジャイアンツ、スワローズ、マリーンズ、
埼玉西武ライオンズは、会場の見直し、平日デーゲームでの開催を余儀なくされた。
このため、昨年と今年とでは観客動員数を単純に比較することはできないし、今年の観客動員数の伸び悩みの原因を、12球団統一球に押し付けるわけにはいかない。
米メジャーリーグから見れば、打球の飛距離が伸びない12球団統一球の採用は理解し難いかもしれない。メジャーリーグには、
本塁打による人気回復を期待するあまり、
選手の禁止薬物の使用を黙認した過去がある。1998年、当時
セントルイス・カージナルスに属していた
マーク・マグワイアと、
シカゴ・カブスの
サミー・ソーサによる本塁打王争いなどだ。
12球団統一球の採用は、本塁打に活路を見出したメジャーリーグとは、まったく逆の発想だ。
だが、ファンの興味は日米で異なる。ある調査によると、
豪快な打撃戦を好むアメリカに対し、わが国は
息詰まる投手戦を好む傾向にある。わが国のファンはむしろ、本塁打が飛び交う試合には食傷気味になる。
もちろん、今年のような投高打低の傾向が健全とは言えない。野球は先取点を取った方が有利と言われているが、12球団統一球により、その傾向はいっそう強まった。
例えば、ゴールデンイーグルスの田中の先発登板日、ゴールデンイーグルスが初回から2点を先制したとする。試合はまだまだ始まったばかりと言いたいところだが、田中の防御率
1.35、全登板試合数の半分にあたる
12完投を考えれば、相手チームは数値上、すでに
逆転は不可能。後は何らかのアクシデントで、田中が降板するのを祈るしかない。
このような試合が続けば、ファンの興味を多いに削いでしまうだろう。
だが、今年は12球団統一球元年。12球団最多の
42本塁打をマークしているライオンズの
中村剛也、昨年を上回る
23本塁打を放っているホークスの
松田宣浩のように、今年の経験を糧に来年以降調整に成功する選手も出てくるだろう。そうなれば、投高打低の傾向も変わって来るかもしれない。
12球団統一球がはたして、営業的にマイナスなのか、判断するのは来年以降でも遅くないだろう。
※今年の成績はすべて、9月26日の日程を終了した時点のもの。
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