この「死の町」に加え、報道陣に「放射能をつけちゃうぞ」とふざけて発言したとして9月10日に辞任した鉢呂前経産相。だが、「責任をとって当然」と批判される一方で、「そもそも失言なのか?」という疑問の声も上がっている。ジャーナリストの青木理氏は、辞めるほどの発言ではないという意見だ。
「“死の町”という言葉は、僕自身も何度も書いているので、そのとおりなんです。ただ、僕らみたいなジャーナリストが書くのと政治家が言うのでは、受け止められ方が多少違ってくるというのはあります。それでも、鉢呂氏の前後の発言を聞くと、それほど不穏当なことを言っているようには、とても思えません」
過去、何人もの政治家たちが失言で失脚している事実を顧みれば、確かにもう少し気をつけるべきだったのかもしれない。だが、コンプライアンスに詳しい弁護士の郷原信郎氏は、政治家の発言という部分を差し引いても、「“死の町”という発言の何がいけないのか、さっぱりわかりません」と、引責辞任を疑問視する。
「原発事故によって、人の立ち入れない状態になっている町。死んだような状態になっている周辺地域の現状をそのまま表現することの何が悪いのでしょうか。悲惨な現実を直視して、今後、こうした原発事故が二度と起こらないように、被災者に十分な補償をするために、そして“死の町”を今後“生きた町”に復活させるためにどう取り組むかが問題のはずです。その点についての大臣の姿勢や取り組みを批判するというのならわかりますが」
実は今年の5月16日に開かれた参院行政監視委員会でも、当時の細川律夫厚生労働相が福島第一原発周辺地域を「本当に町全体が死の町のような印象をまず受けました」と評している。しかし、この時はまったく問題になってはいないのだ。
野田内閣の発足からわずか9日にして起こった大臣辞任劇。野党やマスコミはまるで鬼の首を取ったかのようだが、被災地の人々の目にはどう映っているのだろう。
(取材/村上隆保、畠山理仁、頓所直人 写真/下城英悟/Green)
【関連記事】
復興税、税制大綱、消費税。野田首相が目論む「増税スリーステップ」野田“どじょう”首相、09年マニフェストを見直すなら解散総選挙をせよ前原誠司元外相が首相になれなかった理由は“政策の散らかし癖”次期首相候補、野田財務大臣の評判は「官僚の操り人形」「書いた社は終わりです」でおなじみ、松本龍前復興担当相の辞任を惜しむ(?)意外な声