「Pohlsepia mazonensis(ポールセピア・マゾネンシス)」は2000年、アメリカ・イリノイ州のメゾンクリークという約3億1100万〜3億600万年前の地層から見つかった
化石であり、「世界最古のタコ」だと考えられてきました。ところが、ポールセピア・マゾネンシスの
化石を最新技術で再分析したところ、実はこの
化石がタコではなく別の生物であることが判明しました。
Synchrotron data reveal nautiloid characters in Pohlsepia mazonensis, refuting a Palaeozoic origin for octobrachians | Proceedings B | The Royal Society
https://royalsocietypublishing.org/rspb/article/293/2068/20252369/481251/Synchrotron-data-reveal-nautiloid-characters-in
World's Oldest Known 'Octopus' Turns Out to Be An Entirely Different Animal : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/worlds-oldest-known-octopus-turns-out-to-be-an-entirely-different-animal
約3億年前の地層から見つかったポールセピア・マゾネンシスの
化石は、柔らかい泥の中に沈んだ時点で腐敗していたことから、当時の古
生物学者らは生物種の分類に苦戦したとのこと。結局、「8本の脚」「2つの目」「墨袋と思われる特徴」が見つかったため、
科学者らはポールセピア・マゾネンシスを「タコ」だと分類しました。この分類には一部の
科学者から疑念の声も上がったものの、長らくポールセピア・マゾネンシスは「世界最古のタコ」として認められてきました。
ところが近年は
科学技術の発展により、ポールセピア・マゾネンシスが発見された2000年の時点では存在しなかった、シンクロトロン光を用いて
化石を破壊することなく内部を観察できる技術が登場しました。そこで、イギリスのレディング大学の古
生物学者であるトーマス・クレメンツ氏らの研究チームは、シンクロトロン光を用いてポールセピア・マゾネンシスを再分析することにしました。
シンクロトロン光は加速器(シンクロトロン)を用いて電子を光速に近い速度まで加速し、強力な電磁石で電子の進行方向を曲げることで発生させる光のことです。この光は病院などで見かけるX線装置よりはるかに強力で、高密度の物体内部を破壊することなく観察することができます。
今回分析されたポールセピア・マゾネンシスの
化石が以下。

研究チームがポールセピア・マゾネンシスをシンクロトロン光イメージング技術で調べたところ、これまでは発見されていなかった「11個の小さい歯のような構造が一列に並んでいる」という解剖学的特徴が確認されました。
これは軟体動物にみられる歯舌という器官だと考えられています。歯舌は表面が細かい歯のような突起で覆われた舌のような構造で、軟体動物はこれを使って食物を削り取るようにして食べているとのこと。
以下の図で「Radula」と示されている部分が、今回発見された歯舌と思われる器官です。

歯舌はタコにもみられますが、一般的にタコの歯舌は各列に7個または9個の歯しか持っておらず、同じ頭足綱(頭足類)のオウムガイ亜綱(オウムガイ類)は13個の歯を持っています。11個の歯を持つポールセピア・マゾネンシスの歯舌はその中間に位置しますが、その形状はタコよりもオウムガイに近かったと報告されています。
また、これまではポールセピア・マゾネンシスの墨袋だと解釈されていた構造物について、実際に墨袋であるという証拠は見つかりませんでした。通常の墨袋には色素であるメラノソームも付随していますが、ポールセピア・マゾネンシスの墨袋とされる器官からはメラノソームも確認されませんでした。
さらに、ポールセピア・マゾネンシスを過去にメゾンクリークで発見された他の頭足類の
化石と比較したところ、新たに発見された歯舌がPaleocadmus pohli(パレオカドムス・ポーリ)というオウムガイ類のものと一致しました。つまり、ポールセピア・マゾネンシスは独立した種ではなく、実際にはパレオカドムス・ポーリの標本だったというわけです。
今回の研究により、「世界最古のタコ」の
化石は約1億5000万年も新しいものとなりました。
科学系メディアのScience Alertは、「これこそが
科学の素晴らしさです。2000年当時の研究者らは手持ちの情報で最善を尽くしました。そして今、新しい技術と手法によって、地球上の生命をより深く理解するための新たな証拠が得られているのです」と述べています。
クレメンツ氏は「時として、議論の的となっている
化石を新しい技術で再調査することで、非常に興味深い発見につながる小さな手がかりが見つかることがあります。3億年間も岩の中に隠れていた一列に並んだ小さな歯が、タコの進化の時期と方法に関する私たちの認識を根本的に変えるのは驚くべきことです」とコメントしました。