【10代のW杯デビュー】
1958年スウェーデンW杯、ペレは17歳で世界チャンピオンになった。開幕時には控え選手だったが、準々決勝のウェールズ戦で決勝点、準決勝フランス戦でハットトリック、決勝のスウェーデン戦で2ゴール。とりわけDFの頭越しにボールを浮かせて決めた得点は印象的で、このW杯の活躍で一躍世界のスターになった。
1978年W杯では開催国アルゼンチンが初優勝。もし17歳のディエゴ・マラドーナが出場していたら、かつてのペレのような活躍をしたかもしれない。だが、マラドーナは最終選考で外されてこの大会には出場していない。セサル・ルイス・メノッティ監督は「プレッシャーの大きいW杯に出場させて潰すわけにはいかない」と考え、マラドーナを選ばなかった。
ペレとマラドーナは17歳の時点ですでに国内リーグで十分な実績を示していた。どちらもサッカー史上最高クラスの才能であり、W杯に出場できたか否かはその時の状況の違いにすぎない。ただ、1978年のマラドーナが20歳だったら間違いなく選出されていただろうし、その時点ですでに不可欠な選手だったはずだ。
代表選考において、10代という年齢が難しいのだ。1978年のアルゼンチンは軍事独裁政権下にあり、10代の選手が多大なプレッシャーにさらされるべきでない、というメノッティ監督の判断は真っ当であったと思う。能力的には選びたかっただろうが、10代で、しかもプロ2年目の「子ども」を危険にさらすべきではない、と考えるのはもっともである。
北中米W杯にも10代の選手はほぼ確実に出場する。
ラミン・ヤマル(バルセロナ)は18歳。ペレが世界デビューを果たし、マラドーナが涙をのんだ年齢とほとんど変わらない。ただし、ヤマルはすでに世界的なスター選手であり、スペイン代表にとって不可欠な存在になっている。ユーロ2024優勝に大きく貢献した実績もある。ペレやマラドーナの時代とは、同じ10代でも経験値が違う。
ブラジルのエステバン、アルゼンチンのフランコ・マスタントゥオーノもW杯でプレーする準備ができている選手だろう。エステバンはチェルシーで、マスタントゥオーノはレアル・マドリードでプレーしている。彼らはペレやマラドーナほどの天才ではないが、大きな舞台は経験済みであり、プレッシャーへの耐性もある。すでに大人の保護を必要としないプロ。エクアドルのケンドリー・パエス(リーベル・プレート)も18歳だが、すでに代表20試合を超えている主力だ。
彼らはいわば「作られた」選手たちで、トップレベルでプレーするために精神的、肉体的な準備がすっかりできている。育成環境の進化はより早熟な選手を生み出しているのだ。
【早熟型と才能型】
W杯に10代で出場する選手は、肉体的に完成に近い早熟型が多い。ペレの最年少記録を塗り替えたノーマン・ホワイトサイド(北アイルランド)、マイケル・オーウェン(イングランド)、サミュエル・エトー(カメルーン)、キリアン・エムバペ(フランス)、ジュード・ベリンガム(イングランド)などは、10代を感じさせないフィジカルエリートだった。
一方で、肉体的にはまだ仕上がっていないが、技術とセンスで図抜けたティーンエージャーもいる。17歳時のペレがそうだったし、今大会の候補で言えば佐藤龍之介(FC東京)とヒルベルト・モラ(クラブ・ティフアナ)がこのタイプだと思う。
肉体的に出来上がっていれば年齢は数字にすぎない。ただ、10代デビューの早熟型はW杯でプレーしたことがその後の保証になるとは限らず、能力的にさらに優れた選手が現れれば、年齢の上下に関係なくポジションを失うこともありうる。
その点で肉体的には未完成だが、技術とセンスでずば抜けているタイプは身体能力の向上とともに地位を不動のものにするケースが多い。近い将来のエースである。
日本の佐藤は19歳、メキシコのモラは17歳。2歳上の佐藤のほうがそれだけ肉体的完成度は高いが、どちらも本領はフィジカル能力ではない。技術の確かさと瞬時の判断力に秀でていて、その点ですでに成熟したフットボーラーだ。彼らがW杯メンバーに選ばれるかどうか、本大会で活躍できるかどうかは、試合の強度に適応できるかにかかっている。いずれは到達できるラインを、W杯前に越えられるかどうかという時間の問題である。
ヤマル、エステバン、マスタントゥオーノ、レナート・カール(18歳、ドイツ/バイエルン)は欧州ビッグクラブですでに適応力を証明しているが、佐藤とモラは主に国内リーグでの実績であり、強度への適応力はこれからの短い時間で証明する必要があるわけだ。
香川真司はこの点で見誤った例になると思う。10代で日本代表にも選ばれていたが、最終的に2010年南アフリカW杯のメンバーには入らなかった(当時21歳)。サポートメンバーとしてチームに帯同するとトレーニングで卓越した力を示していて、大会後に移籍したドルトムントでは優勝の原動力となった。セレッソ大阪でプレーしていた時点で、すでにそれだけの実力は持っていたのだが証明する場がなかったわけだ。
【短期間で一気に開花することも多い】
代表チームのエースとなる選手のほとんどは、すでに10代の段階でそれだけの力は示している。しかし、チーム事情によって与えられる機会は変わる。リオネル・メッシは18歳の時にドイツW杯でプレーしているがスーパーサブ的な起用のされ方だった。アルゼンチンはハビエル・サビオラやエルナン・クレスポなど実績のある選手がいる層の厚いチームだったからだ。同じ大会でクリスティアーノ・ロナウド(当時21歳)はすでにエース格。ポルトガルのほうがやや選手層が薄かった。
佐藤は南野拓実の負傷欠場によって機会が広がったと思われ、モラはメキシコの得点力不足の切り札としての期待がある。将来の大器と目される10代は短期間で一気に開花することも多く、追い風を受けて飛翔する魅力があり、チームの起爆剤にもなりえる存在だ。
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