◆いきなりの無礼発言に面食らう
「自分は成瀬のメンターになったんですが、入社してまだ間もない頃に行った1on1ミーティングで、耳を疑う言葉を投げかけられました。『自分のキャリアプランでは、ここで2年間ディレクションを学んで、3年目には外資系のインハウスのディレクターとして
転職するつもりです。なので、ここで成長できないと判断したら、早々に『損切り』させてもらうので、そのつもりでいてください』と言うんです」
これから仕事を教わる立場の人間とは思えない発言に衝撃を受けたという。
「自信があるのはいいことですが、教える側の私に対して『自分にメリットがある環境を提供しろ』と要求してきたわけですから。『すごいのが入ってきた』と社内でもすぐに噂になりましたね」
入社早々からかましてきた成瀬さんだったが、研修が進んでもその勢いは止まらなかった。
「研修中に、先輩社員たちが培ってきたWebマーケティングのノウハウを教えていると、『それ、効率悪すぎませんか? まだそんな古い手法を使ってるんですか? 僕が本で読んだ最新のノウハウだと、今はこうするのが常識ですよ』と鼻で笑われたんです」
◆不遜な態度がなぜか評価されてしまう
実戦経験ゼロの新人が、先輩たちが苦労して試行錯誤を重ねて獲得してきたノウハウを「時代遅れ」と評価し、逆に講義を始めてしまう。
「当の成瀬は『自分は絶対的に正しい』というスタンスを崩しませんでした。さらに厄介なことに、現場の疲弊を把握していないマネージャーが『今時、あんな骨のある奴は珍しい』と彼を評価してしまったんです。人づてにそれを聞いた成瀬は、さらに増長することになりました」
松本さんの案件の打ち合わせに、成瀬さんが同行した時のこと。
「自分がクライアントに提案をしているときに、成瀬が突然、自分で考えたという案を先方に披露し始めたんです。先方はそのアイデアを面白がっていましたが、成瀬のプランは予算を大幅に無視した、実現不可能な夢物語でした」
成瀬さんの案に乗り気になってしまったクライアントをなだめるために、その後、事態の収拾に追われることに……。
「打ち合わせを終えて疲弊しきった自分に対して、成瀬が『この会社に僕がいられる期間は、1年もないかもしれませんね』と見下した表情で言い放ったんです。もう怒りを通り越して、呆気に取られたという感じでした」
◆肝いりの企画は「AIが生成したような…」
本人の強い希望もあり、成瀬さんは異例の速さで独り立ちすることになった。最初に担当した案件は、深刻な若手不足に悩む地方の老舗建設会社の採用コンテンツの制作だった。
「現場の熱量や、プロジェクトを成功させるために関係会社を含めて一丸となって取り組むチームワークの良さなど、仕事の魅力を丁寧に取材し、求職者の心に響くコンテンツを作る。それがディレクターの腕の見せ所となる仕事でした。ですが、成瀬が提出したのは、AIが生成したような味気ないテンプレ通りの構成案でした」
無論、松本さんは「現場の声をもっと引き出して作らないと誰の心にも刺さらない。構成案を変えた方がいい」と伝えたのだが……。