昔の工場や原子炉施設などの制御室を見ると、壁や機器の一部がそろって淡い青緑色(シーフォーム・グリーン)に塗られていることがあります。デザイナーのベス・マシューズ氏は、こうした施設でよく見かける「シーフォーム・グリーン」の由来を調べました。
Why So Many Control Rooms Were Seafoam Green
https://bethmathews.substack.com/p/why-so-many-control-rooms-were-seafoam

マシューズ氏がシーフォーム・グリーンの由来を考えるきっかけになったのは、
アメリカ・テネシー州オークリッジにある
マンハッタン計画関連施設の制御室でした。つまみやレバーやボタンが並ぶ操作盤が印象的ですが、それと並んで目を引いたのが、壁や室内で広く使われていた独特の「シーフォーム・グリーン」だったとのことです。海の泡を思わせる淡い青緑色で、当時の工場や制御室でしばしば見られた色だといいます。

この色がなぜ多くの制御室で使われていたのかをたどる中でマシューズ氏が行き着いたのが、
20世紀前半に活動した色彩理論家であり、企業に色の使い方を助言する色彩コンサル
タントでもあったファーバー・ビレン氏です。ビレン氏は1919年にシカゴ大学の美術学校に入った後、色彩を本格的に学ぶ課程がなかったため、心理学者や物理学者に話を聞きながら独学で色の研究を続けました。
1933年にニューヨークへ移ったビレン氏は、色の使い方によって売り上げや作業環境を改善できると考え、その発想を企業に売り込んでいました。シカゴの食肉卸会社では「白い壁では肉がおいしそうに見えない」と指摘し、青緑系の背景なら牛肉がより赤く見えると提案したとのことです。こうした提案が評価されることで複数の業界がビレン氏を起用するようになり、世界最大級の化学メーカーであるデュポンもビレン氏の取引先の一つになったそうです。
第二次世界大戦中に
アメリカで戦時生産が拡大すると、ビレン氏とデュポンは工場内の事故を減らし作業効率を高めることを目的として、工場向けの色分けルールを作りました。その内容は以下の通りです。
・Fire Red(ファイアーレッド):火災対策設備、非常停止ボタン、可燃性の液体
・Solar Yellow(ソーラーイエロー):注意が必要な場所や、転落のような物理的危険
・Alert Orange(アラートオレンジ):機械の危険な部分
・Safety Green(セーフティーグリーン):救急用品、非常口、洗眼設備などの安全設備
・Caution Blue(コーションブルー):安全とは直接関係しない情報、告知、故障中の表示
・Light Green(ライトグリーン):視覚疲労を減らすため壁に使う

この色分けルールは1944年に
アメリカの安全対策団体であるNational Safety Councilの承認を受け、1948年以降は実務上の標準として広く扱われるようになりました。
マシューズ氏は、ビレン氏の「壁にはライトグリーン」という
考え方が、制御室でシーフォーム・グリーンが多く使われる背景を考える手がかりになるとみています。実際に、
第二次世界大戦中の
マンハッタン計画で
プルトニウム生産を担ったハン
フォード・サイトのB原子炉制御室や事務室も、ビレン氏が勧めたライトグリーンやミディアムグリーンを思わせる配色になっていたそうです。

ビレン氏は1963年の著書「Color for Interiors: Historical and Modern」で、工場では目の疲れや、室内の色が作業効率や
心理状態に与える影響を考えるべきだと記しています。その上で、色は単なる装飾ではなく見やすさを整えるために使い、さらに作業条件に応じて人の感情面にも配慮すべきだとしています。
マシューズ氏はこの本に記載されている「壁の下側にはミディアムグリーン」「機械や設備にはミディアムグレー」「防火設備には赤」「日光があまり入らない場所ではベージュの壁」「床は明るい色が望ましい」といった小規模な工業空間向けの配色指針を取り上げ、「B原子炉制御室にはこうした方針と重なる部分が多い」と述べています。
マシューズ氏は、制御室で使われていたシーフォーム・グリーンを単なる流行の色ではなく、作業する人の気が散りにくくなり、危険を示す表示が目立ちやすくなり、長時間の監視でも疲れにくくすることを狙った実用的な色として捉えています。

この投稿はソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも話題になっており、「機能的な色彩理論を重視する設計思想は貴重だ」という反応がある一方で、「政府系施設の外にも同系統の色が広がっており、余った塗料が影響した可能性がある」という見方も出ています。