◆ゴールド免許死守の制限速度運転
地方の警備会社に勤務する船井さん(仮名・34歳)の朝は、徹底した安全運転から始まります。片道20キロの通勤路は移動オービスの頻出地帯。ゴールド免許を死守する彼にとって、制限速度走行は絶対のルールです。
「あの道、見通しが良いからみんな飛ばすんですけど、僕はゴールド免許を絶対に汚したくないんです。だから、その日もいつもと同様、ぴったり時速50キロで淡々と走っていたんです。すると、後ろから猛スピードで迫る黒い塊がミラーに映りまして……」
正体は、威圧感たっぷりのトヨタ・
アルファード。車間距離は今にも追突されそうなくらいに短く、ナンバープレートが読めるどころか、ミラーが車体で埋め尽くされるほどあおられていたそうです。
「蛇行にパッシング、さらには執拗なクラクション。金髪でサングラスをかけた20代くらいの男が、ハンドルを叩きながら何かを叫んでいるのが丸見えでした。正直、朝からいい気分ではないですよ」
片道一車線のこの道路はずっと追い追い越し禁止道路で、加えて、対向車も多く無理な追い越しもできなかったため、後続車のイライラはつのる一方だったようです。
◆信号待ちで降りてきた後続車の輩
追い越し禁止の黄色い線が続く区間、船井さんがルールを守れば守るほど、後続の男はヒートアップ。そしてついに、運命の赤信号がやってきます。
「停車した瞬間、後ろのドアが勢いよく開いて。肩を大きく揺らし威嚇ながら、大股でこっちに近づいてきたんです」
男は船井さんの運転席横に立つと、窓をドンドンドン! と激しく叩き、下品な罵声を浴びせました。
「オラー! テメェなにノロノロ走ってんだよ! ケンカ売ってんのか?」
と、大声を張り上げながら船井さんの車に近寄ってきた後続車の輩。船井さんは、サイドミラーで輩が迫ってくるのを確認しながら、窓を開け輩と視線を合わせました。
◆急に大人しくなった輩
それまで大声を張り上げていた輩は、窓越しに船井さんを見るなり、急にその勢いは弱まり、ついには何も話さなくなり、一瞬沈黙がつづいたかと思うと、輩の口から信じられないような言葉が発せられたといいます。
「あ、あのう。えと、この辺にコンビニありますかね?」
それもそのはず、実は船井さんの外見は輩の数倍も迫力があったのです。身長は189センチ、髪を短く切り、体格はまるでプロレスラー、それに加え、鋭い目つき。その迫力ある風貌に、
あおり運転をしていた輩は縮み上がったそうです。
その輩は、少したかぶった声色で「あ、すみません、ありがとうございます。失礼しました」とまで言ったそうです。
「実は、今までにも同じようなことはありました。自分ではそれほど感じないのですが、私って、ほんとうに強面なんだそうです。まあ、学生時代に柔道もしていましたので、いざ取っ組み合いになっても勝てる自信はありましたけどね」
◆いつの間にかどこかへ消えた後続車
その後の展開は、笑ってしまうほど対照的でした。信号が青になると、
アルファードは先ほどまでのそりが嘘のように、20メートル以上の車間距離を空けて追従してきたといいます。
「もうパッシングも蛇行も一切なし。しばらく走ると、脇道へ逃げるように消えていきました。かっこわるいですね……、あれだけ煽っておいて。実は、これが初めてではないんですよ。これまでも数回同じようなことがあって、よほど怖かったのか、車の横で土下座するやつもいました」
今回取材するにあたり、最初に船井さんとお会いした時は筆者もかなりその強面に驚かされました。たぶん、あの風貌に文句をつける人はいないと思います。
「車という“鎧”をまとったとたん、人間は態度が大きくなるのですかね。たぶんあの輩も当分は大人しく運転するでしょう。でも、あの手の奴らはまたすぐに態度がでかくなるんですよ」
笑みを浮かべながら話す船井さんは、どちらかというととてもチャーミングで、頼り甲斐のある雰囲気なのですが、あの鋭い目つきでロックオンされたら、おそらく誰でもビビるほど迫力がありました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営