与えられた時間は長くなかった。しかし、たった一度のチャンスでも輝く、揺るぎない技術があった。
鹿島アントラーズのMF
柴崎岳は2-2で迎えた後半43分、ジョーカー起用で終盤の攻勢を託されると、最初の見せ場で試合を決めた。同45分、相手のクリアミスで獲得した左コーナーキック。曲がりながら落ちる右足キックをニ
アサイドに送り込むと、FWチャヴリッチの頭をかすめたボールがゴールマウスに吸い込まれた。
極上の精度でもたらした一発回答の今季初アシスト。「自分が出て、自分がチャンスを作れても一回かなと思っていた。スルーパスだったりチャンスに直結するようなパスはイメージしていたけど、セットプレーでもいいかなと思っていた。1本蹴る機会があって、それを仕留めようと思っていたので、達成することができてよかった」。これが0-2からの逆転劇を仕上げる決勝点となった。
CKの直前にはDF
植田直通から粋な腕章を受け取っていた。「直通と蹴る前に話して『どこに蹴ろうかな』という話の中から決めた位置に蹴ることができた。ナオが気を利かせてキャプテンマークを渡してくれたので、そういうのもあって良いボールを上げたいなと思っていた」。ゲームキャプテンから託された腕章を左腕に巻きながら、頭をよぎったのはチームのキャプテンとして責任感。ここまで試合をつないだ仲間への思いも込めて右足を振った。
「みんな本当に頑張っていたので。守備に攻撃に本当によく走っていたし、なんとかチームの努力が報われるような形にしたいなと思っていた」。出場機会が少ない中でもピッチ内外でリーダーシップを示し続けてきた33歳が、ついに目に見える結果でもチームの先頭に立ち、首位浮上につながる勝利を手繰り寄せた。
かつては国内屈指のボ
ランチとして、90分間のゲームコントロールを強みとしてきた柴崎だが、近年は負傷の影響もあってプレータイムが限られ、その強みを発揮できる機会は決して多くない。しかし、今季は得点が欲しい場面での途中出場が続く中、第2節・横浜FM戦(◯1-0)でも決勝点の起点となるロングパスを通すなど、限られた時間で着実な得点関与を続けているのが印象的だ。
いまの柴崎はジョーカーという新たな役割と向き合い、持ち前の技術を短時間に凝縮しながら結果を残すという新境地を切り拓こうとしている。
「取り組んでいることとすれば、まずはプレーを楽しむことですかね。楽しみながらプレーしたいなと思っています。
コロナ禍から交代枠が5人になって、以前よりもベンチワークだったり、チームで何か物事を達成するという重要性が非常に増していますよね。なので出場時間に限らず、出た選手が結果を残すことが非常に大事なサッカーの潮流になっているかなと思います。その中で自分が入るのは得点が欲しい時だと思っているし、監督からもそういうメッセージを言われなくても受け取れている」
経験豊富なリーダーのひたむきな姿勢は、同じようにベンチスタートの立場に回る周囲にもきっと前向きな影響を及ぼしている。「本当は一緒に入った(田川)亨介と話していて、なんとか1本出すからと言っていた。(勝ち越し点の)形は違えど、そういうパスを出そうとは考えていましたね」(柴崎)。クラブを背負う姿勢は変わらず、ピッチ上でも仕事を果たす--。“10番主将”として導いた9年ぶりの
Jリーグ制覇を経てもなお、
柴崎岳は前に進もうとしている。
(取材・文 竹内達也)