今大会のメンバー発表会見に出席したニルス・ニールセン監督は、プレッシングに関する質問を受けた際、田中の名前を引き合いに出した。
「特に、田中に関しては非常にすばらしいものを持っている。予測がすばらしい。あと2ステップ前に出ることでプレスがかかる、ということを彼女であればわかっている。それによって自分たちのゴールチャンスを作れるということもある」(ニールセン監督)
ニールセン監督体制は、前線からの守備のかけ方を特に重視する。その第一人者として、指揮官は田中の名前を挙げた。だがチーム発足から一年が経つなかで、田中も最初からその役割をこなせてはいなかったという。
「この代表が始まってから前線の守備のことは細かく言われていた。だけど、(プレスに)行けるとき行けないときがある。行ったときに後ろがついてきてくれている安心感と、後ろからしたらちょっと無謀なときに変に(プレスを)かけすぎてしまってひっくり返される塩梅があって、FWのスイッチの入れ方で迷うときがあった」(田中)
田中が明かす“迷い”の時期は昨年10月。ヨーロッパで行われた国際親善試合でイタリアに1-1で引き分け、ノルウェーに0-2で敗れ、国際親善試合で6試合連続未勝利となっていたタイミングだ。
スタッフ陣と密に話し合いながら、キャプテングループの一人である田中は、率先して仲間とも考えを共有した。「自分自身も混乱していた部分もあったり、ほかの選手も混乱していた部分を話して、クリアにすることが自分の務めかなと。そういうことを汲み取って、混乱したまま試合に入らないように」。そうして迎えた11月のカナダ戦、田中はひとつの答えを見出した。
1-0で迎えた後半6分、相手GKにバックパスが入ると、田中が一気に距離を詰めた。清家貴子、宮澤ひなた2人が効果的なポジショニングで近場にいた相手4人へのパスコースを封印。田中はパスを躊躇した相手GKからボールを奪い切り、冷静にゴールを沈めた。
前半は田中とMF谷川萌々子の前線2人だけで相手の守備陣にプレスをかけていた。しかし、より効果的なプレスを仕掛けるために、田中はハーフタイムに清家貴子らウイングにも相手守備陣への牽制を頼んでいたという。
「ウイングにも、相手のCBやSBにもう少し早い段階で牽制するのをやってほしいと伝えていた。(プレスを)かけるときに(清家)貴子をチラッと見たら、貴子が準備できている状態だった。それで思いっきりGKに(プレスを)かけやすくなって、ああいうミスを誘えたのかなと」
悩んだ末の成功に、田中も手応えを示す。「気持ちよくカナダの試合でハマって、ああいう形で点を取れた。(ニールセン監督は)そういうところを評価しているのかなと思う」と、指揮官からの称賛の理由を予想していた。
もっとも、田中の本質は守備ではなく得点だ。なでしこジャパンでは97試合46得点、ニールセン監督体制だけでも11試合7得点と数字を積み重ねてきた。屈指の点取り屋だからこそ、対アジアの難しさは理解している。
「やっぱり綺麗なゴールだけは難しい。押し込む時間帯が多いなかで、相手が引く場面も多くなってくる。そこをどう破るかは、自分の駆け引きもやらなきゃいけないし、味方が打ったこぼれ球に泥臭く反応しなくてはいけない」
12チーム参加の今大会で上位6チームに入れば、2027年女子ワールドカップ出場権も獲得できる。「今回は内容よりも結果が大事。相手によってはゴールまで行くのは難しかったりもするけど、そこは泥臭く開けていくところを見せたい。FWなんで。やっぱり一番点を取る選手になりたい」。磨き上げた守備力、そして本領の攻撃力で、アジアの壁を打ち砕くつもりだ。
(取材・文 石川祐介)