歴史的な円安を追い風に、訪日
外国人観光客が急増している。
しかし、その裏で浮上するのは「安いニッポン」という新たな課題だ。オーバーツーリズムによる価格競争で観光事業者の収益が伸び悩み、地方の観光資源は疲弊し始めている。
その一方で、地方では少子高齢化や人口減少により、冬の風物詩であるスキー場を始めとした地域資産の維持・存続自体が危ぶまれている。
「安売り」の構造から脱却し、地方の隠れた価値(観光資源、地域資産)を磨いて高付加価値化し、“稼げる”持続可能なビジネスモデルを確立。地方が持つ潜在的な価値を再発見し、未来へと繋ぎ「新たな活路」を切り拓こうとする挑戦者たちを追った。
【動画】1人250万円「富裕層ツアー」で“安いニッポン”脱却へ 地域を潤す“新・観光学”‟安いニッポン”を高く売る秘策…地方の観光資源を磨く!

岐阜・羽島市にある「淺野鍛冶屋」。店主で刀匠の淺野太郎さんは、平安時代から1000年続く伝統技法を受け継ぐ一人だ。
日本刀の多くは美術品としての注文で、価格は1本約250万円。しかし、制作には約2カ月かかるため、年間に数本しかつくることができない。
「現存する世界最古の技術体系。刃物の中では世界最高だと。刀の値段をゼロ1個増やすのが目標」。
しかし、作業時間や原材料費などコストを考えると、経営は簡単ではない。そのためか、刀鍛冶職人は、35年前に比べて約半分に減少している。

この日、「ジャパンチケット」(東京・渋谷区)執行役員の宮崎有生さん(41)が、淺野さんのもとを訪ねた。
ジャパンチケットは、日本ならではの体験をコンテンツ化し、海外のサイトで予約・販売する会社で、伝統芸能の体験もあれば流行りのキャラ弁づくりまで、4000件もの商品を扱っている。過去最多となる訪日外国人を陰で支える会社だ。
宮崎さんは、新たに“地方ならではの特別な体験”を組み込んだツアーを商品化し、インバウンドの富裕層向けに売り出せないかと全国を回っていた。
淺野さんの技術に触れた宮崎さんは、「まだ見ぬ日本を発掘して、地域が持つ良さを引き出して、世の中に広めていきたい」と話す。

2025年10月。宮崎さんは地方の眠れる観光資源を発掘するため、広島・宮島を訪れた。
世界文化遺産の厳島神社には連日多くの
外国人観光客が押し寄せているが、宮崎さんはそんな場所に目もくれず、裏道にあるカフェ「天心閣」へ。この店の売りは絶景が楽しめるテラス席で、知る人ぞ知る人気スポットだ。
宮崎さんはカフェの特等席(最前列)を優先的に押さえたいと考えていたが、店主に提案すると、他のお客の手前、席を優遇できないという。
それでも宮崎さんには、「価値を高めて事業者を潤したい」との強い思いがあった。
「僕らは団体のお客様を多く連れてくるよりは、質に絞る。1人1万円払って参加する100人よりも、『100万円を落とす1人』を連れてくる方が、よりハイタッチなきめ細やかなサービスができる。事業者の収益性も上がってくる」。
宮崎さんは楽天グループ出身で観光の予約サイトの仕事をしていたが、そんな中、コロナ禍が観光業界を襲う。「インバウンドを相手にしていたので、ほぼ利用者がいなくなった。暗闇の中をさまよっている感じだった」。
観光事業者が苦しむ姿を見た宮崎さんは、事業者とより近いところで助けになる仕事がしたいと、2022年にジャパンチケットへ転職。しかし、ツアーの開発以上の難問にぶち当たっていた。
「一番難しいのは集客。例えば、オンライン上で誰もが見えてしまうと、一緒に企画した事業者さんが嫌がるケースもある」。
限られた人向けの高額で特別な体験……広く宣伝するのが難しいのだ。

台湾・台北市。台湾は訪日外国人の地域別で第3位に入る大きなマーケットで、この日、宮崎さんは、カード会社「JCB」の仲介で「台北富邦銀行」へ。台北富邦銀行は、頻繁に日本を訪れる人向けにJCBカードを200万枚以上発行している。
宮崎さんは、銀行が抱える優良顧客を紹介してもらおうと、個人客などを担当する副頭取、
アンディ・チェンさんにツアーの魅力をアピール。富山県や北海道のプロモーションビデオを見たアンディさんの反応は上々だ。

いよいよアンディさんが「顧客を紹介できるプランかどうか」を見極めるため、広島県にやって来た。まずは原爆ドームなど、県内の観光地を視察する。
続いては、山口・岩国市にある酒蔵「獺祭」へ。小さな酒蔵から始まった獺祭は、今や世界的なブランドだ。
用意していたのは、酒蔵の見学や「櫂入れ」というブレンド工程の体験。そして、普段は立ち入ることが許されない「麹造り」の見学。これが、宮崎さんがツアーのために磨いた特別な体験だ。

最後は獺祭のお酒をテイスティングし、サプライズで「獺祭」桜井一宏社長が登場。
集客が課題だったジャパンチケットのツアーだが、果たして、アンディさんの反応は?
宮崎さんが開発した「富裕層ツアー」(3泊4日1人250万円 ※2人1組の場合)の全貌とは――。
スノーリゾート再生請負人…新たなる挑戦!

長野・白馬村。白馬エリアは10のスキー場を抱えるウインタースポーツの聖地。
その一つ、白馬岩岳マウンテンリゾートは、年間約46万人(2024年度)が訪れる人気のスキー場だ。
ここには、雄大な北アルプスの大パノラマが広がる標高約1300メートルの展望テラスや、大自然に飛び込むような感覚を味わえるブランコも。こうした施設を目当てに、普段着姿の客や雪になじみのないアジアからの旅行者も多く見られる。

仕掛けたのは、スキー場の開発やそのアドバイスをする「ズクトチエ」の和田 寛さん(49)。
「スキーやスノーボードはハードルが高いので、みんなが楽しめるわけではない。人口の4〜5%しかできないものだけを追いかけるのではなく、残りの95〜96%の人も楽しめるところを目指す」。

和田さんは、スキーに頼らなくても客を呼べる仕掛けを磨いてきた。
例えば夏場、使い道のないスキー場は、斜面をマウンテンバイクのコースに活用して収益化。秋は雪と紅葉と緑葉が一度に見られる「三段紅葉」を売りにするなど、大自然を生かして、スキー場を稼げるエリアへと改革した。
通年で人を呼び込むことに成功し、今では夏の客数が冬のスキーシーズンを大きく上回る。
東京生まれの和田さんは、東京大学を卒業後、農林水産省のキャリア官僚に。
2014年、「スキー客が減少する白馬の力になりたい」と、白馬のスキー場運営会社に転職。観光に携わる仕事を経験してきた。

いま白馬では、円安も追い風となり、冬の観光客の半数ほどを外国人が占めている。
インバウンドが村の経済を下支えする一方で、和田さんにはある懸念が。
外国資本の投資が増え、白馬村の地価が高騰。地元の事業者の中には、商売に見切りをつけ、土地を手放す人もいる。
「お客としての外国人を否定することは、絶対にやめた方がいい。日本人は減るので。その時、資本まで全部を海外の人に持っていかれると、日本という素材を使って“海外の人が海外の人をもてなす”姿が一部の観光地で出来上がっている。僕らはそうしたくない」(和田さん)。
実は白馬は民宿発祥の地。家族経営の宿も多く、観光産業で栄えてきた。

2025年10月、和田さんは、消えゆく日本の宿を守ろうと動き出していた。
1970年に創業した家族経営の民宿「ロッジいとう」。スキー場の目と鼻の先にある民宿で、1泊2食付きの昔ながらのスタイルで愛されてきたが、2023年に廃業した。

和田さんが取り組んでいたのは、廃業したこの民宿を生まれ変わらせること。
コンセプトは民宿のアップデートで、約6畳の客室がメインだった間取りを大幅に変更。インバウンドのグループ客にも対応する、ゆったりとした間取りに改装する。

もう一つの仕掛けが、宿泊者以外も利用できるレストラン。収益性を高める戦略だ。
「海外の人も含めて、長期滞在のお客を受け入れることで、夏も冬も観光地として伸びていく。宿泊施設も(ニーズに)合わせていく」。

「これから先は年をとっていくだけなので、体が無理かなと」。民宿を営んできた伊藤典幸さん(61)は、廃業の理由をそう話す。
伊藤さんの自宅は宿と一体になっているため、冬場の凍結防止など、建物を維持するだけでもコストが重くのしかかる。「月に電気代だけでも4〜5万円くらい」(伊藤さん)。
このままでは住み続けるのも厳しい状況…そこで伊藤さんが頼ったのが、和田さんだった。
和田さんの会社が伊藤さんから土地・建物を借り受け、自宅部分を含めた施設全体をリノベーション。その費用は、和田さんたちが運営する新たな宿の収益で賄うという。

「自分の子どもや孫の世代が、観光で主体となって稼ぎ続けられる。観光開発のゴールは、地域が元気であり続けること」。
新たな宿を成功させるため、和田さんは考えた秘策とは。さらに和田さんのもとに、別の観光地から新たな依頼が舞い込む――。
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